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運命の分かれ道――その10




――その10



「捨て石の部隊まで使って敵の目を逸らそうとした俺達だが、まだ脱出が上手くいったと思うのは早計かもしれないぞ」


 疲れたようにへたり込んでいた敵共は、そのセリフにぎょっとしたのか、一斉に彼を見た。


 つか、俺が一番ぎょっとしたよ、くそったれっ。




「まさか!」


 言われた年配のおっさんは、額の汗を拭き拭き、笑う。

 味方の動揺を抑えるためか、声を張り上げた。

「もう国境までは半時間もありますまい。これまで敵の陰もなかったですし、むしろ我々は魔族軍を警戒しすぎていたような気がしますな。……ですがまあ、そろそろ出立しますか」

 そこでさりげなく、怪我人についていた少年を見やる。

「どうだ、ラミエル殿は馬に乗れそうか?」

「……気絶してらっしゃいますから、無理ですよ」

「そうか。ならば仕方ない。彼女と相乗りになるが、馬車にお移り頂こう。なに、狭い場所でもないし、二人なら問題あるまい」


 

『ら、ラミエルって……敵軍の将軍の一人だぞ!』

 ヨルンがまた驚いたように囁いた。

『あと、あのリグルスだよ。あいつ、俺達の方を見なかったか?』

『わかってる!』


 俺は歯噛はがみして答えた。

 暗がりからリグルス達敵兵士の反応をじっと観察したが……仮に俺達に気付いていたとしても、それはリグルスだけの気がする。他の奴らはまるでこちらに目もくれないからだ。

 多少なりとも警戒していたなら、そもそも今までの会話は有り得ないだろう。

 リグルスが知っていたとしても、なぜか教えないように見える。


 もちろん気休めだし、どのみちリグルスの態度を無視していいわけはないが、あいにく俺達には他に選択肢がない。ここが最後のチャンスだろうから。

 ここでみすみすマヤ様が連れて行かれるのを指をくわえて見送るか、それとも救出に賭けるかだ。今決断しないと、敵はもう動き出そうとしている。




『いずれにせよ、やるしかない。奇襲決行だ!』


 考えた末、俺はきっぱりと言った。

『今の会話を聞く限り、馬車にマヤ様が乗っているのは間違いないだろう。エルザ、射程内だよな?』

『十分よ!』

『よし、ならやってくれっ』

『わかったわ! 女の恨みは怖いことを教えてあげる。みんな、ちょっとだけ目をつぶっててっ』


 エルザの警告と同時に、俺達は一斉に目を閉じた。

 ここまでは予定通りだったが、なぜか最後の瞬間、俺のそばにいたミュウがあらぬ方を見て「あっ」と小さく声を上げた。

 なぜだか気になったが……訊きたくても、もはや手遅れだった。

 その瞬間、エルザが勢いよく立ち上がり、スタンバイ中だった魔法を奴らに放ったのだ。


「――思い知るといいのよっ。スーパーフラッシュ!」


 目を閉じ、さらにその上から腕で覆っていてさえ、貫くような白い光が広がったのがわかった。

 エルザの放った小さなボール状の光が、敵のど真ん中まで飛んで爆発したのである。ただし、この爆発は閃光のみで、特に殺傷能力はない……ないが、まともに見た奴は十数秒は何も見えなくなるだろう。


「ぐわああああっ」

「いやああっ」

「い、いてえっ」


 敵陣から悲鳴の合唱が起きた。

 俺は、光がまだ収まらないうちに木の陰から飛び出し、一直線に敵の小部隊めがけて突っ込んでいった。

 ここ最近では久しぶりに腹の底から雄叫びを上げて。


「うあぁーーーーーーっ!」

「死ねやぁあああっ」

「我が家名にかけてっ!」

「エレンっ」


 俺以下、ヨルンもギリアムもダヤンも、ほとんどヤケクソのような叫び声を上げていた。

 周りから見ると、気でも違ったように見えたことだろう。ただ、少なくとも目を押さえてのたうち回っていた敵達は、面白いようにうろたえてくれた。


「なんだ、どうなってる!?」

「敵だ、敵の奇襲だぞっ」

「ちくしょうっ、俺の剣はどこだあっ」



「ぐあっ」

 まずは右往左往していた一人の胸を刀で貫いて倒し、俺はさっと周囲を見た。

 油断していただけに、目を覆わんばかりの敵の混乱ぶりだった。ただ、まだまばゆい光が消えきっていない今、俺も敵の全てが見えているわけじゃない。

 幸先の悪いことに、なぜかリグルスは、最初にいた場所にいなかった。


 くそっ、どこへ行きやがった、あいつ!?



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