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レイバーグ、語る

 またしてもとんでもない濡れ衣を着せられ、俺はアランがだいぶむかついたが、かなり疲れがたまっていたと見えて、軍議を終えたあとは上体がふらふらと揺れていた。


 まあ、それは俺だけのことじゃなく、けろっとしていたのはミュウとマヤ様くらいのもので、他の仲間も大なり小なり、疲労が窺えた。

 とにかく、「問題に対処するためにも、半時間ほど休むか」と思い、俺は別室を用意してもらって横になったのだが……あいにく半時間どころか、次に目覚めた時は窓から明かりが差していた。

 しかも、起きたのはレイバーグに揺さぶられたからだという……こいつはなぜか、俺のベッドの横に椅子を置いて、座ってたのだな。ちゃんとスーツをびしっと着込んで。




「起こしに来てくれたのか……今、何時かな?」


 寝ぼけ眼を擦って尋ねると、レイバーグは柔らかく笑って答えた。

「十時前だから、まだ昼までにはもう少しあるよ」

「うおっ。そりゃまた何時間も爆睡しちまったっ」

 俺は慌てて半身を起こしたが、なぜかレイバーグが肩に触れて、止めた。

「いや、まだほとんどの者は眠ってるし、今は起きる前に、ちょっとそのままで話を聞いて欲しいんだ。……急な用件というわけでもないけど、ちょっと重要なことがわかった」

「小心者の俺を脅かすなよ。なにがわかったって?」


「先日、ボクが『二千年前に栄えたロクストン帝国時代の古い記録を調べてみようと思う』と言ったのを覚えているかな?」

「もちろん! 俺も協力するからって言ったのを覚えてるぞ……しかし、まさかもう仲間から返事が来たのか?」

 確かレイバーグは、元の仲間と連絡を取り、その手の古い記録を当たってみると言ってたはずだ。さすがにまだ返事が来るような時期じゃないと思うんだが。

 俺の疑問に対し、彼はあっさり頷いた。

「もちろん、まだ使者を送ったばかりで、返事は来てない。ただ、昨晩はボクも他に部屋を借りて休んでいたんだけど……早朝に起きたら、なぜかベッドの脇にこの本が置いてあったんだ」

 言うなり、レイバーグは膝の上に載せていたらしい、やたらと年季の入った本を両手で持ち上げた。今の時代じゃあまりみないサイズだし、革表紙の妙にデカくて重そうな本である。

 表紙に金文字で「古代の祭司と神々」とかいうタイトルが読めるが……もはやその字も掠れかけている。俺が座ってる位置からだと、全然気付かなかったな。


「その本、元から部屋にあったんじゃないのか?」

「絶対に違う」 


 レイバーグはきっぱりと首を振った。

「狭い客間だし、もしこんなのが置いてあったら、入った瞬間に気付いてたよ」

「ふむ?」

 なんだか背中がぞくぞくして、俺は薄暗い部屋を眺める。

 カーテンを開けたかったが、びびってるように思われたら嫌だよな。

「そ、それで、もう読んでみた?」

「うん……とてもまだ全部は読み切れてないけど、ひどく気になる記述があった」

 レイバーグは心なしか身を乗り出した。

「知っての通り、ロクストン帝国時代のユメは、邪神ヴァレンティーヌと呼ばれていたんだが、元々闇の種族を束ねる彼女には、ちゃんと父親がいたんだよ」

 俺は顔をしかめてしまった。

 よく考えたら、生まれている以上、どこかに父親がいて当たり前だが、なにしろあの幼女は邪神だからな。正直、考えもしなかった……父親の存在なんて。


「しかし……父親がいた割には、全然そっちの話は聞いたことないよなぁ。邪神の父親なんて、相当目立つだろうに」

「当然の疑問だけど、それにはちゃんと理由があるんだ。彼女の父親は、元を正せばこの世界の創世に関わった、太古の神々の一人なんだ。つまり、最も古い神々の一人ってわけ。ところが、時代が進むうちに、人間達は崇めていたその神々を忘れ、自分達で独自の神を作り上げてしまい、そちらを崇拝するようになった……いわゆる、偶像崇拝にあたるのかな」

「……話がややこしくなりそうだけど、つまり、もうユメの父神はいないってことか?」

「いや、話は実は単純なんだよ。もう少しだけ辛抱して聞いてほしい」

 ヤケに緊迫した顔のレイバーグに、俺はもちろん頷いたさ。

「わかった。続けてくれ」


「ユメの父親にあたる太古神は、長い年月が流れる間に、自らが創造した人間達が徐々に自分のことを忘れてしまい、人間が勝手に捏造した偽の神を崇めるのを苦々しく思っていた。その頃には彼の力もかなり薄れていて、もう世界創造時の力は残っていなかったけれど、そのまま歴史の舞台から消えることをよしとしなかったのさ。そこで、最後に唯一残っていた自分の信者の女性に、自らの力で女の子を授けた。神の祝福によって受胎したその子こそがヴァレンティーヌであり、その後に邪神となる女神なのさ」


 黙って聞いていた俺は、段々、訝しい思いに襲われていた。

 なんというか……淡々と語るレイバーグの顔が、いつもと違うように思えたのだな。有り体に言えば、トランス状態に入ったみたいな夢見るような表情してやんの。

 ……ていうか、そもそもいくら眠っていたとはいえ、部屋の中にまで入られて気付かなかったっていうのも、ちょっとおかしいな。


 まあ、相手がレイバーグなら、有り得るかもしれないけど。

 なんて俺が考えている間に、レイバーグは気にせずどんどん話を続けている。


「愛する我が子に自らの力を与えきったその太古神は、遺言にあたる重要な言葉を残し、当時の世界から静かに消え去った」

「……その重要な言葉って?」


 人がせっかく訊いてるのに、レイバーグはなぜかさらりと無視しやがった。

 まるで聞こえなかったように、続きを語り始めるのだな。いよいよおかしいぞ、こいつ。


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