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またしても濡れ衣

「前とは様子が違うというのは? 性格まで変わってるということ?」


 レイバーグが下座から身を乗り出して尋ねる。

 なんだか、サクラと同じくらい気にしてる感じだ。

「変わっていますね、明らかに」

 ギリアムは大きく頷く。


「以前の彼にはない重厚さが見受けられます。それだけではなく、尋問した私に向かい、しつこいほど二つのことを繰り返し訴えかけてきました。一つは、『これからすぐに、今から指示する場所まで軍勢を送り出して欲しい!』ということで、もう一つは『ナオヤ達がユメを殺す前に、なんとしても彼らを止めてほしいっ』ということの二点です」


 俺達は思わず顔を見合わせた。

 ギリアムも俺達に負けないほど不審そうな顔つきだったが、そこでスーツの上衣を探り、一枚の紙切れを出して寄越す。

「これがその、レージが書いた地図です」

 争うにようにして俺達はその地図を眺めたが……しばらくまじまじと眺め、マヤ様が唸った。


「これは、つい先刻、我々が脱出したばかりの、出口ではないか」

「あ、確かにっ。街道の位置からして、間違いありませんっ」

 マヤ様に続いて、回し見したローズも何度も頷いた。

「なぜ、敵の司令官が地下通路の脱出口を知っているんでしょう? 今となってはサクラさんくらいしか知らないはずなのに」

 なんとなく、俺達はサクラの方へ目を向けたが、彼女は肩をすくめてこう述べただけである。


「レージなら、知ってても不思議はないわ」


「なぜだい?」

 当然の疑問だと思うのに、サクラはレイバーグの質問をはぐらかした。

「レージ本人に訊いた方が早いわよ。今の話を聞くと、もう彼はもう目覚めているかもしれない」

「目覚める? どういう意味?」

 今度は俺が尋ねたが、これにもこいつは「そのままの意味」と答えたのみである。全然わからんぞ、くそっ。でもそういやサクラは、終始レージの身の安全については、まるで心配していなかったな。その辺りがなにか関係してるのか?


「整理すると、こういうことかな?」

 考え込んでいたマヤ様が、ギリアムに顔を向ける。

「行方がわからなかった元捕虜のレージが、突如として我が方の砦に戻ってきて、マヤ達が脱出する位置を正確に教え、軍勢を向かわせろと指示した……その指示の中には、ユメを殺すなという嘆願も含まれると」

「大まかなところは、その通りでございます、陛下」

 ギリアムはまた低頭した。


「さらに申し上げると、彼はどうやらナオヤ様達の窮地を、なぜか予見していたようです。なかなか信じない我々に向かい、『急がなければ、ナオヤ達が殺される可能性もあるのだっ』と強く申しておりました」

 レージの予測が恐ろしいほど実情に近かったので、思わず広間の中が静まり返ったが、俺はあえて重ねて尋ねた。この際、わかることはなんでも知っておきたい。

「レージの行動と言動が謎なのは置いて、よく軍勢の一部を割いて、救援に来る気になったな、ギリアム? いや、もちろんお陰で助かったんだけど、おまえのことだから、もっと疑い深く慎重かと思った」

「それは確かに!」

 俺のからかい半分の意見に、妹のローズが諸手を挙げて賛成した。

「これっ、おまえまでがなんだっ」

 さすがにギリアムも苦笑したな。


「確かに私は疑いましたが……レージの懸命な面持ちを見て、今回だけはあえて危険を冒す気になりました。万一、彼の訴えが本当なら、ナオヤ様達に危険が迫っていたわけですから」

「いや、それで本当に良かったんだって、うん」

「そうだ、今回ばかりは助かったぞ」

 俺とマヤ様の二人で、手放しで褒めてやった。

「それで、そのレージは今、どこにいるの?」

 レイバーグが口を挟むと、ギリアムは眉根を寄せて答えた。

「さすがに信じ切るのもなんですので、レージ本人も我々に同行させております。ただし、彼はまだ回復の途中らしく、今は気絶するように眠っているところですが」

「なんだ!」

 マヤ様が吹っ切れたように笑った。


「それならば、そやつが目覚めるのを待ち、さらに詳しい話を――」

 言いかけたところで、広間のドアが乱暴にノックされた。





『し、失礼しますっ。戦士将か、陛下にご報告したきことあり!』


「入室を許す! すぐに入れっ」

 マヤ様はたちまち鋭い目つきになり、外へ促す。

 たちまち、転がるような勢いで軍装の兵士が飛び込んで来たが……立ち上がった俺達を見て、慌てて片膝をついた。

「軍議中、失礼致しますっ」

「よいっ。戦時に煩雑な礼など不要だ。何事かっ」

 マヤ様が尋ねると、伝令は早口で言上した。


「先程、レージ軍の使いと思われる兵士を捕縛しましたっ。尋問したところ、そやつは旧ルクレシオン帝国に駐留中の自軍に向けた使いであり、問い詰めたところ、携えた命令も白状しました」

 そこで伝令は、派手に生唾を呑み込んでから、続けた。


「その者が言うには、『自分は、ユメ様を殺害したナオヤと魔王マヤへの復讐のため、全軍に向けて魔界領への侵攻を命じよ!』との指示を受け、命令伝達のために使いに出た者だと――」


 そこまで聞いたところで、いきなりマヤ様が喚いた。




「誰がユメ殺害だあっ。本当に殺したならともかく、そんな事実はないぞおっ」

 そこでぱっと横に立つ俺を見る。

「それとも、あそこで逃げた後、あの寸足らずが亡くなったというのか?」

「まさか! 彼女のしぶとさからして、有り得ないです」

 俺は逆に、頭の中が冷え切ったように冷静になっていた。


「とはいえ、一時的に行動不能にくらいはできたのかも。もしそうだとしたら、当然、これも濡れ衣なんですよ! 俺にレージ殺しの罪を着せようとしたのと同じです。どういう理由か知らないけど、アランの奴がユメを手にかけたんだと思います」


 自信をもってそう告げると、今度こそ広間の空気がどっと重くなった。


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