思わぬ助け
「そうよ! それに言い忘れたけど、ここから脱出するのなら、なにも元の方角に戻らなくても、他に出口があるわ。今のところ方向は合ってるから、分岐まできたら、わたしがまた指示するわ」
最後にサクラがしれっと付け加えてくれた。
そうか、そういやこいつ、「地下通路の構造なんて、なにも覚えてませーん」て態度は、全部嘘だったんだよな。
「そりゃ有り難い。じゃあサクラは、俺と一緒に先頭で」
「いいわよ」
「よし、再出発!」
さすがに俺も少し反省して、「あまり落ち込んでるトコを見せちゃいかんな」とばかり、率先して駆け出した。
もちろん、エルザやネージュ達がついて来られる程度の駆け足で。
しかし、あいにくほのぼのした時間は、すぐに終わっちまった。というのもふいにミュウが叫んだのだ。
「ナオヤさんっ。後ろから多数の熱源体接近! 多分、傭兵達ですっ」
「うっ。見つかったのか?」
まだ時間はあるだろうから、俺は立ち止まり、ミュウに確認する。
「人数どれくらい?」
「それが……この地下通路に入った生き残りの全員かと思うような数です……」
「えぇええええっ」
「ユメの警護とか、そういうのは無視したのか!」
マヤ様が呆れたように口走ったが、俺も同感である。
普通、最重要人物のユメの警護に人数裂くだろうに……俺達とやり合って間がないんだから、余計に警護は重要だと思うんだが。
思わず首を傾げたが、あいにくいつもながら、ミュウは正しかった。
幾ばくもしないうちにばらばらと足音がして、むさ苦しい傭兵どもの集団が駆けてくるのが見えた。当然、向こうもこっちを見つけ、嬉しそうに叫びやがった……わざわざ指差して。
「うぉりゃあ! アラン様の仰った賞金首がいたぞぉおおおっ。ナオヤとマヤ以外はとっととぶち殺しちまえっ」
「な、なんだなんだなんだっ。なんでアラン様だよっ。しかも賞金首だと!?」
頭が混乱したが、それでも俺は慌ててまた駆け出す。
今度はもちろん、本気で走ったさ!
「ま、待って待ってぇっ」
相変わらずドン尻にまで置いていかれたエルザの悲鳴がした。
「もう少しだから、がんばりなさいっ。ナオヤ、次の分岐を右よっ」
「了解!」
サクラの声反応し、俺は焦って通路の角を曲がった。
サクラの適切な指示のお陰で、俺達は少しずつ追っ手を引き離していった。
俺達と違い、敵には道順を教えてくれるような人材がいなかったのが幸いだった。詳しいはずのユメは、まだ回復の途中だしな。
サクラの言うところの最後の地下通路を駆け抜け、とうとう外へ飛び出すことができたのだ!
出た場所は、やはり最初に入った森の中で、残留魔法で岩にしか見えない擬態がかかったところだった。
ただし、今回は街道が木立の向こうに見えるし、逃げるのには非常に適していた。サクラの記憶は驚くほど正確だったようだ。後は、後ろから迫りくる敵を振り切れればっ。
みんな、覚悟を新たにしたが……あいにく、俺とレイバーグとサクラがほぼ同時に声を上げた。
多数の気配を、その街道の方から感じたからだ!
「またかいっ」
「軍勢!?」
「待ち伏せの敵にしては、早すぎるけど?」
「なによなによ、また敵なのぉ? あたし、もう疲れたぁ」
地面に座り込んだエルザが、ばてばての顔で愚痴った。
実際、このねーちゃんは疲労困憊の有様で、今にも倒れそうに見える。
「待て待てっ。サクラの言葉じゃないけど、さすがに敵にしては対応が早すぎるだろ。こんなすぐに、待ち伏せに遭うわけない。だいたいこの気配って、少なく見積もって数千くらいいるぞ」
じっと気配を窺った俺は、思わず口走った。
「なにっ」
それを聞いて、マヤ様がいきなりずいっと前へ出た。
「ならば、早速確認せねばなるまい。忘れているようだが、ここはまだ魔界領なのだからな。その軍勢がもし敵軍ならば、早急に対処せねばならぬ」
「そ、それはそうですね……よし、なら森伝いにそっと気配の方へと接近しましょう」
「そんな必要はない。斥候の役目なら、マヤだけで余裕だ」
言うなり、マヤ様が漆黒の翼を大きく広げる。
行動が素早いのがこの方の特徴だが、今回も俺が止める暇もなく、もう夜空へと舞い上がってしまわれた。
「ちょっ! て……もう飛んで行っちゃったし」
ぐんぐん小さくなる黒点を見て、俺はためいきをつく。
「いくら夜だからって、見つかる危険性はゼロじゃないのになあ」
「大丈夫じゃないの?」
サクラが楽観的なことを言う。
「あの人、ドレスも漆黒だから、見つかりにくいと思うわよ」
「まあ……確かに」
「あと、正直あたしとエルザは、もう限界だものねぇ」
「実は、私もです」
「ボクも……」
おお、ネージュ達はともかく、ローズとレイバーグまでっ。
いつもなら文句言うところだが、俺は肩をすくめるに留めた。地下通路じゃ、やたらと逃げ回ることが多かったものな。
多勢に無勢だったんだから、仕方ないとはいえ。
ただ、今接近してくる連中が敵だとしたら、ちょっとやっかいだぞ。なにしろ俺達、徒歩のままだしな。それにいつまでもここにへたり込んでもいられない。
いつ、復活したユメとその手下が追いつくかもしれないしな。
ピンピンしてるのがミュウくらいってのは、ちょっと危ない。レイバーグとサクラも、かなり疲れてるようだしなあ。今ここで追いつかれたら、危ないことになりそうだ。
というわけで、俺はネージュ達に倣わず、立ったまま苛々とマヤ様を待つ。しかし、思ったより待ってた時間は短かったかもしれない。
多分、数分と掛からずに戻ってこられたからな。
「うわっ」
バサバサッという派手な音と共に、漆黒の翼が目の前で風を起こす。その派手な音に、エルザとネージュが飛び起きたほどだ。
「ど、どうでした!?」
着地したマヤ様に、俺は勢い込んで尋ねる。
下手すると、ここからまた逃避行かと覚悟したんだが、マヤ様はなんとも複雑な表情で言われた。
「今こちらに接近してくるのは、ギリアム率いる我が軍の部隊だ」
『えぇえええええっ』
いやぁ、無理もないが、俺達の驚く声が重なってしまったぞ。
「あたしが砦を出る時は、特に出陣の予定があるようなこと、言ってなかったのに」
まん丸な目でエルザが独白する。
「エルザも知らないとなると、彼女が出た後でなんかあったかな?」
「詳しくはまだ聞いておらぬ。我が軍の旗印と、ギリアムが先頭にいることがわかったので、
気を揉んでるナオヤに、まず知らせてやろうと思ってな」
「それは、恐縮です」
俺は低頭した後、皆を振り返った。
「急いで、ギリアムと合流するぞっ」
もちろん、反対の声は上がらなかった。
というより、味方の軍勢と合流できるのなら、渡りに船というやつかもしれない。なにしろ、どうやって追っ手をかわすか、頭が痛かったからな!




