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アランの決断

 アランが主君であるユメを見つけたのは、本当に偶然である。


 ナオヤ達を見つけようと一人で地下通路を探索していると、なんとメイン通路から外れた細い通路に、ユメが倒れているのを見つけたのだ。



「ユメ様!」

 さすがに駆け寄って抱き起こしたが、ドレスはあちこち破れているものの、身体に目立った傷はない。呼びかけるとうっすら目を開き、慌てて身じろぎしたほどだ。

 しかし、すぐに相手がアランだとわかったようで、安堵したようにため息をついた。


「ああ、おまえね。脅かさないで、ナオヤ達かと思ったじゃない」

「まさか……ナオヤ達にやられたのですかっ。して、奴らはどこにっ」

「まだ……地下通路内のどこかにいるでしょ……ユメの封印に失敗して、今頃は絶望して逃げることしか考えてないでしょうから」


 眠そうな声で、呟くように言う。

「ユメももうすぐ全回復するから、おまえはユメに構わず、すぐに追撃しなさい」

「ははっ」

 それはもちろん、アランとしても望むところであり、抱き起こしておいたユメを通路の壁にもたれさせ、すぐに命令通り走り出そうとした……のだが。

 そういえば、ユメがナオヤと直接話したとなると、一応は尋ねておいた方がいいかもしれない。

 アランはそこでようやく、自分がついた嘘のことを思い出した。


「そういえばユメ様。レージ様を拉致したナオヤめは、あのお方の居場所について、なにか白状しましたか」


「訊いてないけど……どのみち、それは問題じゃないわ」

「……は?」

 さすがにこれは聞き捨てならない。

 アランは眉をひそめ、回復途上のせいか、どこか夢見心地の顔をしたユメに重ねて尋ねた。


「それは、どういう意味でございましょう?」

「うるさいわねぇ……今は回復に専念する必要があるのに」

 ブツブツ言いながらも、アランがじっと見つめて返事を待っていたせいか、ユメは渋々ながらも教えてくれた。

「本来、パパを害そうとしたって、無駄なのよ。それというのもパパは――」

 ユメはぼそぼそと語り、アランにとって非常に重要なことを教えてくれた。

 それはいいが……もしそれが本当なら(疑う要素などないが)いずれ、レージに刃を向けたのが誰なのか、否応なくバレるということになる。

 まさか、あの状態からレージが戻ってくるとは考えられないのだが、しかしユメが今ここで嘘をつく理由などない。


 アランの心を真っ黒な絶望が覆ったが、しかしまだ自分は死ぬわけにはいかないっ。

「なにをぼおっとしてるの? 早く……ナオヤ達を追撃しなさいっ……逃げちゃうでしょ!」

「そう……ですね」

 ゆっくりと答えつつ、アランはそっと腰の刀に手を伸ばす。

 今のユメの話が真実だとするなら、同じくユメ自身も、アランの手でどうにかなるような存在ではないだろう。しかし少なくとも時間を稼ぐことだけはできる――できるはずだ。

 稼いだ貴重な時間に万一の可能性を託し、ナオヤ達に復讐するしかあるまい。


「――ただ、いずれにせよ、僕の行く末には確実な死しか待っていないんですね……まあ、それも運命でしょうけど」


 自嘲気味に呟いたものの、アランはかえってすっきりした気分だった。

 どうせ血塗られた道なのだ……今更、何を恐れることがあろうか。


「え? なんと言ったの?」


 まだぼんやりしたユメが、またうるさそうに顔を上げようとする。

 しかし、その時にはもう、電光石火で抜刀したアランが、ユメに刃を振り下ろしていた。




          ○――――○





 俺や仲間の傷は、ネージュやエルザなどが魔法で治してくれたものの、正直、俺達のここでの仕事は終わったようなものである。


 俺達は……というより、俺は失敗した!


 もう一度ユメを封印するようなチャンスが来るとは思えないし、ユメももはや、うかうかと俺達の罠に嵌まりはしないだろう。

 なにより、傷を治したとはいえ、気力と体力の低下ばかりはすぐに戻らない。

 自然と俺達は、もはやこの地下通路からの脱出を目的として動くしかないということだ……つまり、遁走する他はないと。





「とはいえ、元々の入り口にあたる方角からは、ホムンクルス兵士や傭兵達がわんさか迫ってくるんだよねぇ」


 軽快に駆けつつ、レイバーグがさりげなく言う。

「ここは一つ、回り道をしながら元の入り口へと接近することを考えた方がいいかな? ねぇ、ナオヤ」

 話しかけられた俺は、しかしすぐには答えなかった。

 心中でずーーんと落ち込んでいて、ろくに周りが見えていなかったせいだ。従ってレイバーグの声も、きちんと脳裏に染み込んでいなかった。

 ただ、マヤ様がいきなり俺の背中をどやしつけ、俺は否応なく現実へと引き戻された。


「これナオヤ! いちいち落ち込むでないっ」

 でっかい怒声と背中への衝撃が、同時である。

 お陰で俺は、危うく前のめりに倒れそうになっちまった。

「あぶっ。いきなりはやめてくださいよっ」

 さすがにちょっと正気に戻っちまったじゃないか。

「ナオヤがいつまでも気にしているからだっ」

 マヤ様が顎を上げて言われる。

「なるほど、さっきの試みは上手くいかなかった。しかし、どうせナオヤがトチらずとも、最後まで成功したとは限らぬし、もう終わったことでもある。じくじく後悔するより、この先どうするかを考えるべきであろうっ」


「……その通りね」

 驚くべきことに、あのサクラがマヤ様に同調して頷いた。

 鮮血で汚れた制服のままだが、もう傷は癒えているので、いつもの調子を取り戻しつつある。

「もう済んだことでグダグダ言っても、始まらないわ」

「う……まあ、そうなんだけどさ」


「それに、正直言うとわたしは、少しほっとしている」

 俺の暗い返事を無視して、サクラは口元だけで微笑む。

「転生した者とわざと逃げてきた者との違いがあるとはいえ、ユメとは同じく異世界である日本で巡り会い、一時的に行動をともにしてたものね。放置できずに戦うことになったとはいえ、こうなって嘆く気にはならないわね」

「だいたい、ナオヤが女の子に甘いのはいつものことだし」

「そうそう、そうだよっ。落ち込むことないってば」

「戦士将は、他の男に比べれば、感じいい人ですよ!」

 おぉ、便乗してエルザやレイバーグ、それにローズまで。

「ナオヤさんは、優しい人ですものっ」

「いや、どっちかというとエルザの言う『女の子に甘い』という意見に賛成かなぁ」


 ミュウとレイバーグがまた笑って言い合い、そしてローズが答える。

「私は元より、誰かを責められる立場じゃありませんし」

 うう……なんか俺、みんなに慰められているな。

 苦労して微苦笑を浮かべた俺は、改めて先頭に立ち、合図した。


「わかったよ。とにかく今は、この地下通路を脱出することを考えよう。後の方策を練るのは、それからのことだ」


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