邪神との激闘
「でも、魔法陣はちゃんと結界を維持しているわよ。実際ユメは、一撃で山を破壊するような大規模魔法は、使えなくなってるもの。あと、術者であるおまえ達を殺すか魔法陣が力を失わない限り、ここから出られないのも事実よ」
楽しそうに述べた後、一転してその笑みを消し、漆黒の瞳で睨みつける。ていうか、主に俺が見られている気が……ここで腹を立てるなら、サクラじゃないのかっ。
「でも、それがどうしたというの? そんな破壊魔法が使えなくても、ユメの身体能力がおまえ達より遥かに勝るのは間違いないわ」
生意気に膨らみ始めた胸を張って宣告した後、嫌なことを付け加えた。
「……それより、おまえたちの方こそ、大丈夫なのぉ? 知ってるでしょうけど、この魔法陣は諸刃の剣なの。結界を維持する間、常におまえ達の魔力を消耗していくことになる。魔力を全て吸い尽くされたら――魔法陣が解除されるのはもちろん、おまえ達自身、立っていられないほど消耗するんじゃないかしらー」
あははっとまた明るく笑う。
「そうなってから、一人ずつトドメさすのも、いいかもぉ~」
「うわぁ」
俺は思わず顔が引きつった。いやいや、正直、それは気付かなかった……というより、聞いてないぞっ。
そういや、さっきから頭がぼんやりすると思ってたんだが、てっきり戦いの緊張感のせいだと思っていた! しかし、これはもしかしなくても……今この瞬間にも、ガンガン魔力が吸い取られている最中ってことでは!?
「時間制限付きはマジかっ」
念のためにサクラを見ると、こいつは厳しい顔つきでユメを睨んでいた。多分、ありゃ痛いところを衝かれた顔だな。
ていうか、サクラ自身が呟くように駄目押ししてくれた。
「あと数分といったところかしら……限界まで」
「き、聞いてないぃいいいっ」
「それはひどいっ」
俺とレイバーグが同時にブーイングを飛ばす。しかし、こればかりは無理もなかろう。
そういう大事なことは、先に言ってほしかった!
「こりゃ途方もなくヤバいぞ。エスメラルダの比じゃないかもっ」
ちらっと地下広間の入り口と出口の方を見たが、出口の外にいるネージュ達は、ムンクの「叫び」に出てくる人みたいに悲壮な顔で俺達を見ているし、入り口のミュウの方は相変わらず結界内に飛び込むべく、一人で奮闘中だった。
俺達が殺られちまったら、彼女達も次に狙われるかもしれない……逃げろって言っておくべきだったな、くそっ。
「どうせユメは、どうしたって本当の意味では殺せないのよ」
サクラがざらついた声で言う。
「だから、せめてわたし達四人の力で弱らせないとっ。そうすれば、神器の力で以前のように封印することができるわっ」
「お馬鹿さん、おまえ達には無理無理無理ぃぃぃっ」
ユメの嘲笑を跳ね返すように、一人だけ様子を窺っていたマヤ様が、また猛ダッシュでユメに向かう。
「ふんっ。ならば、短期決戦で倒せばいいだけの話だっ」
「いや、殺せないって前提なのにっ」
ボヤきつつも、俺もまた跳ね起きて、走り出す。
ただ、今回マヤ様は前と同じやり方ではなく、間合いに入る寸前でいきなり軽やかに跳んだ。
「おおっ」
空中で自慢の翼を広げたマヤ様を見て、俺は思わず感嘆の声を上げてしまう。
「ナオヤっ。ぼけっとするでない! 空と地上の、両面から飛びかかろうぞっ」
叱声を受けて、俺は始めて得心した。なるほど、それは多少は、有効かも!
しかし、あっけにとられて見上げていたユメは、そこでようやく我に返り、憎たらしく吐き捨てた。
「お馬鹿ねっ。ユメだって翼を広げて飛ぶくらいできるものっ」
「俺がさせるかようっ」
既に間合いに入りつつあった俺が、注意を引くように叫ぶ。
「ナオヤなんかっ」
ユメがさっと右手の剣を持ち上げた途端、次にレイバーグの頼もしい叫び声がした。
「ドラゴンバスターぁあ!」
「うっ」
残像を引いて突っ込んでくるそのスピードに、始めてユメの顔から余裕が消えた。
「おおっ。ナイスだ、レイバーグっ」
刹那の間とはいえ動きが止まったユメめがけ、俺は渾身の剣撃を放つ。もう一切の手加減をせず、頭を割る勢いだったが、さすがにこれはあっさり右手の剣で弾き飛ばされた。しかも、このとんでもない少女邪神は残った左手の剣を一閃させ、レイバーグの突進を例の衝撃波で吹き飛ばしてしまうっ。
「あうっ」
「しつっこいわようっ」
ほぼ同時にマヤ様が上空から急降下して大剣で斬りつけようとしたが、これは最小限の動きで身体をズラしてかわし、長い足が翻ってマヤ様を蹴り飛ばす。
「おのれ!」
「くそっ」
「つうっ」
俺達三人はまたしても飛ばされて床に這ったが、しかし、これで終わらなかった。なんとレイバーグの背中に隠れるようにして、同じくサクラも突っ込んで来ていたのだ!
「わたしを忘れて欲しくないわねっ」
「くっ! ブレイブハートっ」
サクラとユメの声が重なる。
この時のサクラは、明らかに全力だった。
かつて俺と戦った時にさえ感じなかった濃厚な殺気を纏い、まさに一陣の風のごとき勢いでユメの懐に飛び込む。最後は大きく跳躍して、空中で刀を振り上げる。
これにはさすがのユメも防御が間に合わず、そのまま大きく後方へ飛んで剣撃を避けようとした――が。
着地したサクラは、寸刻の間を惜しんでそのまま跳躍し、今度こそまだ空中にあったユメを完全に捉えた。
「ユメ、覚悟おっ!」
「くっ」
おそらく剣を持ち上げてガードしたのだろう、ユメは。しかし、その動きはタッチの差で間に合わず、光の軌跡を残して、サクラのとんでもない突きがユメの左肩を貫いた。ユメは、寸前でなんとか心臓を避けたようだが、始めて剣撃を食らったのだ。
これで左手から対の魔剣の片方が落ち、肩から血が飛び散った。
しかし、さすがにやられたままでは済まさず、自らも右手の剣を動かし、サクラに斬りつけた。
「痛いじゃないっ」
「――あっ」
またしても二人同時に声を上げ、同じく血飛沫を上げてどさっと落ちた。それでも、少なくともユメは身軽に転がってまた跳ね起きたが、サクラの動きは鈍い。辛うじて半身を起こそうとしたものの、まだ立てずにいた。
「い、いい加減に……おまえとの因縁を断ち切ってあげるっ」
躊躇せず、ユメが右手を振り上げた。




