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バレているっ

 簡潔に言った後、サクラは改めて釘を刺した。


「結果的に、魔法陣の力がユメの能力を押さえ込み、魔法を使えなくするの。そういうわけだから、この中に無関係な人が残ろうなんて、自殺も同然よ。神器の発動前に私が合図を出すから、その瞬間に跳ね起きて逃げなさい。命が惜しければ、絶対に残ろうなんて考えないで。冗談じゃなく、四人分の増幅魔力を浴びて、死んじゃうわよ」


 サクラは入り口と逆方向にある広間の出口を指差す。

「合図と同時に、神器を装着してない人達はあそこから逃げる! そうそう時間はないから、その時が来たらとっとと退避して。いいわね?」

「わ、わかったわ! 速攻で逃げるからっ」

 真っ先にエルザの震え声がした。


「ていうか、今から逃げちゃ駄目なの!?」

「まだ駄目に決まってるでしょ」


 またあっさりとサクラが否定してくれた。

「しかし……俺はサクラ達と違って、魔法なんか使えないぞ。俺がメンツでいいのか」

 ふと不安になった俺が声を上げると、サクラではなく、マヤ様が答えてくれた。

「魔力をエネルギーに変換するのはここの魔法陣なのだから、関係あるまい。そもそも、ナオヤには元から膨大な潜在魔力が宿っているではないか。自分のMPを忘れたのか」

 そこまでは冷静な指摘だったのに、次の瞬間に苛立ったように叫ぶ。

「じゃなくて、いつまでミュウとくっついているのだっ」

「いやだって、死んだ振り中ですし――」

「あの、ミュウも質問いいですか、ナオヤさん」

 俺の言い訳を遮り、ミュウが明るい声で介入する。


「人間が広間内に残ると危ないのはわかりますが、ミュウは普通の人間じゃないですよ? 心は恋する乙女でも、肉体のほとんどは人工培養された強化細胞組織で、その耐久度は普通人とは比較になりません。それに、内臓には人工臓器も使われていますし」


「こ、恋する乙女って自分で言いますか!」

 ローズが驚いたような、それでいてどこか羨ましそうな声を上げた。

 実のところ、俺もそう思うが……まあ、今のミュウはかなりいつもと違うからな。

「まあでも、ミュウはやっぱり外に出ていてくれ。俺としては、ミュウに怪我してほしくない」

「ナオヤあっ」

 いきなり遠くからどやされた。

「マヤは怪我してもよいのか、マヤはっ」

「ボクもだよっ」

 うお、レイバーグまでっ。

「その子は心配されてるのに、ボクはどうでもいいのかい!?」


「そ、そんなこと言ってないだろっ。でも、俺達は最初から神器を使うしかない立場だし、どうしようもないわけで――」

「静かにっ」

 みっともない痴話喧嘩を、サクラが手を上げて止めた。

 しばらくじっと入り口の向こうに見える通路を透かし見るような目つきをした後、小声で言う。

「ユメの気配が接近してくる……いよいよ、本番よ」

「来たか!」

 などと嬉しそうに声を上げたのは、実にマヤ様だけだった。俺は死体の振りを続けつつも緊張感でガチガチだったし、エルザの「ああっ、早く逃げたいわあっ」という泣き言を洩らす声も聞こえた。多分、他の仲間も大なり小なり、同じ気持ちだったと思う。実際、サクラが警告してから、一秒が十秒にも二十秒にも感じられた。


「ここから一切、声を出さないで……そろそろ見えるはず」


 駄目押しのサクラの声が聞こえ、俺はさっきと違い、薄目を開けることさえ控えた。なにせ、相手は子供とはいえ、太古の生き神様だからな。

 用心するに越したことはないだろう。それでなくても、俺の倒れている位置は、入り口に近いし。待機してた時間は一分もなかったはずだが、俺には永遠に等しい時間が過ぎたように思えた。

 だが、しばらくしてようやく微かな……本当に微かな足音がした。規則正しい足音で、慌てるでもなく急ぐでもなく、まるで散歩の途中のような悠々たる歩みを想像させる。

 なるほど、これはユメその人のものだろう。

 緊張感漂うなか、足音はゆっくりと着実に接近し、そのうち入り口で立ち止まったらしく、全く聞こえなくなる。


「……サクラ、ちゃんと任務を果たした?」

 ここで目を開けて確かめるほど俺も馬鹿じゃないが、おそらくサクラは無言のまま頷いたのだろう。とにかく、あいつの声はしなかった。

 さあいよいよ本番っとばかりに、俺の緊張感はいよいよ高まったが――どういうわけか、いつまで経ってもサクラが合図を出さない。おまけにユメの声もしない。

 なんだよ、どうしたんだよっと俺が一人で焦れていると、ようやくユメが声を出した。ただし、サクラに話しかけたわけではなく、笑い声である。


「うふふふ……あはははっ」


 微かな笑い声は徐々に大きくなり、そのうち子供のくせに哄笑も同然の有様になった。

「あーはっは! 馬鹿みたいね、サクラっ」

 この辺りで、さすがの俺も辛抱仕切れずに、薄目を開けて様子を見た。もはや、予定通りにいってないのは、否応なくわかるもんな。

 見れば、ユメは入り口から動くことなく、広間の中央付近に立っているはずのサクラの方を見つめている。それも、あからさまに馬鹿にした表情で。


「お馬鹿ねぇ、サクラ。ユメが、おまえの芝居に気付いてないと、本気で思ったの?」

 揶揄するような声音の後、一転して声が冷たくなる。

「どんな大根芝居を見せてくれるかとそれなりに期待していたのに、この程度だったとはね……死体の演技なんか無駄に決まってるでしょ」

 うふふとまた笑う声がして、ユメが嫌な指摘をする。


「時にサクラ、スカートのポケットが膨らんでいるけど、もしかしてそこに神器を隠しているわけ?」

 うわ、こいつぁヤバいと俺は思ったし、事実、サクラが悔しそうに声を上げるのが聞こえた。

「くっ!」

 さすがにもう、のんびり死体演技している場合じゃないぞっ。

 やむなく、俺が起き上がろうしたその時――マヤ様の雄叫びの声が聞こえた!


「ならば、正面から倒すのみだあああっ」


「うわっ、なんてことを!」

 俺は今度こそ飛び起きたし、他のみんなも同様である。しかし、その時にはマヤ様はご自分のでっかい大剣を手に、ユメに向かって駆け出していた。


「俺達以外は、反対側の出口から逃げろっ」


 仲間を見もせず、跳ね起きた俺は命令だけ叫んでおく。

 もはや半ば失敗が見えているけど、あがいてみないとなっ。


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