運命の分かれ道――その7
――その7
くそ、動揺してドモっちまっただろっ。
「……心配してくださるのですか、人間でもない私を」
綺麗な碧眼を見開き、じっと見つめられた。しかも、肩においた手にそっと白い手を重ねられてくる。
なんという柔らかい手! おまけに指が細長くて神々しいほど良い形だし……あと少し目線を下げれば、スーツの胸は突起が微かに窺える。しかもこのスーツの特性として、胸の形がかなり詳細にわかっちまうのだな。絶対この子、ブラとかしてないぞ、みたいな。
こんな時だってのに、心臓の鼓動が三倍速になってしまったじゃないか。
落ち着かない気分になり、思わず目を逸らす。マヤ様もそうだが、相手が美人過ぎるのも問題だ。自分との差を意識しまくるからな。
特にミュウは、神話の美少女女神かオリエント工業か、つーくらいの外見だし。
「俺、むしろそこら辺の普通の人間より、ミュウの方に重きを置いてるんで。だから、俺のためにも戻ってきてくれ」
ぶっきらぼうに、しかし完全な本音で言うと、ミュウはそっと俺を抱き締めてくれた。いや、一瞬、頬と頬が触れ合った程度なんで、もしかしたら俺の妄想だったかもしれないが。
「ご心配なく。偵察のみで、ちゃんと戻ってきます……ナオヤさんのためにも、ですね?」
「そ、そうだよ、うん。その通り」
俺の返事を待たず、微かな風を残してミュウは走り去った。
相変わらず、足音もろくに立てないくせに速いこと速いこと!
「やれやれ」
身体の線だけ見るなら全裸に等しいような完璧少女と話すのは、(嬉しいものの)精神的にすげー疲れる。
そもそも元の世界じゃ、俺はクラスメイトの女子と会話なんて皆無だったからな。
休憩もかねて、その場にへたり込みかけたが……ところがそうは問屋が下ろさなかった。
「……なんだ!?」
眉根を寄せ、俺は振り向く。
前方ではなく、なぜか俺達の来た方角……つまり、東の方角から微かな蹄の音がしたのだ。
しかも、こりゃ複数だぞっ。
俺は慌てて馬を道の端に寄せ、自分は森の中にささっと隠れた。上手くすれば、乗り手は途中の路上で死んでると思ってくれるかもしれないし。
もちろん、こりゃ敵なんだろうな、くそっ。
用心のために刀の柄に手を掛けて待つ。1分もしないうちに蹄の音が接近し、騎乗した三人の野郎どもが見えた。
……見えた途端、俺は脱力しちまったね。
ギリアムとヨルンとダヤンじゃないか! しかもしかも……ギリアムの馬には、嫌そうな顔で相乗りする、エルザまでいたっ。
俺は蹴飛ばされたように道に飛び出し、両腕を広げて止めた。
「待て待て待てっ!」
「あ、いたいた、ナオヤがいたー」
逆立った黄色い髪のヨルンが脳天気に手を振りやがって、俺は目眩がしてきた。
「どうなってんだよ!?」
「ナオヤ様が夜明け前にいなくなっているのを見つけた直後、我々もすぐに後を追ったんですよ」
ダヤンは珍しく破顔して言った。
「なかなか追いつけませんでしたが、先程、この森に入るお二人を見つけまして……お陰様で何とか追いついたんです」
「途中はともかく、少し前からは、既にお気付きかと思っていました」
追従して、ギリアムがなだめるように言う。
「この森に入ってから、頻繁にミュウが振り向いてましたからね。彼女はとうに我々を発見していたはずですが……?」
そうか、それでミュウはちらちら後ろを見てたのか!
俺は内心で嘆息する。多分、見つけたけど俺には報告しなかったんだろう。無論、しなかった理由もわかる。全ては俺のためを思ってに違いない。
いくらミュウがヒューマノイドとはいえ、二人で敵の残党に突っ込むのはヤバいもんな。
考えてみりゃ、俺も少し冷静さを欠いていたかもしれない。




