抜き身の刀
エルザが最初に報告した通り、前方に薄ぼんやりとした巨大な空間が広がっている。
一応、十数本はあろうかというごつい石柱が天井を支えているのだが、その天井までの距離も、相当なものだ。
こんなトコになんでぽっかりと空洞があるのかわからんが、人工的なのは柱だけで、あとは元から空いてた穴のような気がする。
そして、問題の死体モドキも確かにあった。
俺の位置からでは石柱が邪魔で見えなかったのだが、エルザがうるさく指差す方へ少し身体をずらしたら、簡単に見つけることができた。
「うわっ」
こちらに背を向けた黒いドレスの女性を見て、俺は遅まきながら口走る。
「ね、ねっ、驚くでしょ!?」
めちゃくちゃ嬉しそうにエルザが言ったが、俺は返事もせずに、片手を上げて皆を制した。
「俺が先頭で!」
声にただならぬ緊張感が含まれていたせいか、意外とみんな、素直に従ってくれた。
全員の視線を感じつつ、俺はそろそろと進んで中へ入る。
石柱と石柱の間を進み、その長身の女性の元まで歩いて行った。今のところは、特に問題ない。
気は進まなかったが、前へ回って顔を覗き込んでみた。
「……うわぁ」
密かな予想通り、この顔には見覚えがある。
いや、髪の色が白銀だったり、ずっと顔つきが大人っぽかったりと、細かい違いはあるんだが、それでもまだ見分けはついた。
こりゃ、どう見てもあのチビ女神、つまりユメの成長した姿だ!
ドレスだって、細かいデザインやサイズは違うものの、今とそう変わらない気がする。「や、やっぱりあの子って、邪神だったのなあ」
なんかキラキラ光る透明なクリスタルみたいな物の中に閉じ込められているが、おそらくこれが封印結界なんだろうな。
遠くから見たら、神官の女性が背中向けて立っているように見えなくもない。
「どれどれ」
辛抱たまらなくなったのか、マヤ様がおれのそばへ来て、並んだ。
「む……ヤケに血色がよい顔だが、これは本当に死んでいるのか?」
「少なくとも魂が抜けているのは事実でしょう。ずっと動かずにここにあったんですから」
俺は慎重に答えつつ、なんとなく周囲を見渡す。
おかしいな、なんだか背筋がぞくぞくする……仲間以外の気配は感じないってのに。
「まあ、こっちのユメは動かないんだから、魂がないのは事実でしょうねぇ。魔法で探っても、特に反応ないし」
人の気も知らず、ネージュが他人事のように解説してくれた。
これでマヤ様は、たちまち関心を失ってしまった。
「なんだ、つまらん……死体など見物しても始まらんだろう。それよりナオヤ、神器とやらを探そうぞ」
「そうですね、確かにそれが先決――て、待てって!」
おそるおそる近付いたローズが手を伸ばしたのを見て、俺は焦って手首を掴んだ。
「は、はいっ?」
目を丸くしたローズに、俺は言い聞かせた。
「用心した方がいい。別に外側のクリスタルモドキに触っても問題ないとは思うけど……どうもさっきから、嫌な予感がするからな」
「そりゃまあ、こんな暗い神殿内で、封印された邪神を目の当たりにしてるんだから――」
賛成しかけたくせに、なぜかレイバーグが口を噤んだ。
気になって俺が振り返ると、レイバーグはなぜか神殿の奥を見やり、目を細めていた。
「どうした?」
「……彼女、様子が変だ」
「彼女?」
レイバーグの指摘に、奇しくも俺達全員が奴の指差す方を見る。
途端に、みんなそろって息を呑んでしまった。
なぜなら、薄闇に紛れるようにして、先に向かったはずのサクラが立っていたからだ。
それも……抜き身の刀を手にして。




