ユメの奇妙な命令
「逃げたですってぇ!」
ダークピラーとかいう、幹部クラスの配下であるレイモンを伴って戻ってきた時、当然ながらユメは膨れっ面になった。
ただ、後からノコノコ戻ったアランが平身低頭で謝罪し、「なにしろ、ナオヤが仲間を連れて奪還に来たので、多勢に無勢でした……」という、半ば嘘の報告をしたところ、ユメはため息をついて許してくれた。
「まあ……仕方ないわね。今に至るまで追ってくれたようだし、あの時、レイモンを迎えに外へ出たユメも悪いのだし」
などと、マントを着用のレイモンを横目で見る。もちろん、嫌みのつもりだろう。
銀髪のレイモンは、恐縮したように頭を下げた。
「も、申し訳ありません、ヴァレンティーヌさ――いえっ、ユメ様」
(おそらく)転生前のユメの名前を言いかけて睨まれ、慌てて言い直した。
既にユメの怒りは醒めたと見て、片膝をついていたアランは、早速、進言した。
「お許し下されば、傭兵かホムンクルス兵士を幾らか連れて、僕がまた連中を追跡しましょう! 地の果てまで追って捕らえ、この不始末をお詫びいたします!」
ナオヤを逃がさないためにも、ここは強く意見しておく。
「ただ、不覚にも連中はまた再結集してしまいました。この際、こちらも戦力を集中すべきかと思います」
「それも考えるけど、おまえ達には他の任務があるわ」
ユメは、再び創造した魔獣の背中に性懲りもなくよじ登って座り、高みからアランとレイモンを見下ろす。
「ナオヤとかいう戦士が来る前にも、ちらっと話したでしょう?」
特にアランに向かって言った。
「まずは、サクラを探しなさい。全ての鍵はあいつが握っているのよ。そろそろ気を入れて探してっ。あの子にも、ちゃんと働いてもらわなくては!」
口にした後、なにやら幼い顔に邪悪な笑みを浮かべた。
「必ずしもこっちが探し出せなくても、サクラの方がユメを見つけてくれてもいいのだけど……もちろん、今のユメのことじゃなくて、遥か昔のユメの身体のことね」
独り言のように述べたので、レイモンはもちろん、アランにも今一つ意味がわからず、二人で顔を見合わせてしまった。
しかし、ユメは特に詳しい説明はせず、きっとなって厳命した。
「もう命令は下したでしょっ。早く、サクラを探してくるのっ。殺さずにおいて、見つけたらすぐにユメに知らせるのよ!?」
「ははっ。では、手下をかき集めて、すぐにナオヤ達を――ではなく、サクラを追い詰めますっ」
結局、自分の望む方向とそう変わらない命令なので、アランは満足して立ち上がった。ダンジョンにさえ出れば、後からどうとでも言い訳ができる。
サクラとやらは、同じ命令を受けたレイモンが探せばいいだけの話だ。
(悪いけど僕は、ナオヤとマヤを楽しく殺すことで、頭が一杯なんでね……ふふふ)
内心でほくそ笑み、アランはさっさと地下広間を後にした。




