土壇場で気付く
「く、くそっ」
俺が思わず悪態をつくと、こいつはまた躍り込んできて強引に鍔迫り合いに持ち込み、こんな状況で楽しそうに笑った。
「安心してほしいな、君はすぐには殺さないっ。まずは君の主君であるマヤと、他の仲間達からだっ。もちろん、君も最後には殺すけどねっ」
「そんな真似をさせるかっ」
激しい怒りに襲われ、俺は先程のお返しのようにヤツを押し返し、向こうがよろめいた隙に魔法陣の方へ走ろうとした。
この際、この馬鹿は無視!
実際、まだ魔法陣に囚われたままのみんなも、俺に向かって手振りで「こっちへ、早くっ!」と全身を使って合図している。ユメの魔法のせいで、もう声が聞こえないのは残念だが――誰の目にも、今は俺が勝負に固執するべきじゃないと映るのだろう。
「んなこたぁ、俺自身が一番わかってるんだけどっ」
思わず考えを口にした途端、また背中に殺気を感じ、俺は歯噛みして横っ飛びに避けた。避けなければ、確実にばっさり殺られるのだから、仕方ない。
「はっは! 僕を置いて、どこ行くのさあっ!? もっと遊ぼうよおっ」
事実、今も際どいところで風切り音がして、アランの剣が俺が元いた場所を薙いだ。あ、危ないな、くそっ。
「ええい、しつこいっ! なら、命がけで倒してやるさっ」
俺はついに覚悟を決め、本格的にアランに向き直る。
こいつはのんびり斬り合いしてたらいいかもしれないが、俺はそうはいかない。もしもユメが戻ってきたら、その時点で終わりだ。
こうなったらヤケだ。
大事なところでいつも俺のピンチを救ってくれた、あの奥の手を使うしかないだろう。いくら実力が伯仲してようが、さすがにこれならこいつも防げないはずっ。
ただ、自由に発動できるわけじゃないから、俺も自分の命を賭けるしかないって話だが――でも、他に名案も浮かばんっ。
「よし、なら賭けてやるさっ」
俺は自分に気合いを入れるためにも大きく叫び、一旦、わざと間合いを開けた。
そしてそこで大きく息を吸い込み、笑顔で剣を持ち上げたアランに向かい、自ら駆け出した。
「行ったらぁああ、死ねぇええええええっ」
頼む、発動してくれっ。
ここで不発だったら、捨て身の攻撃がパアになって、俺は死ぬかもしれんっ。
ヤバすぎる願いを胸に、俺は刀を構えもせず、単に走り出した。まさに、自分で敵の刃の下に飛び込んで行くようなもので、自殺行為に近い。
しかし、本気で死の恐怖に身を委ねないと「あれ」は発動しないんだから、やむを得ない。
「あっはっは! なんだいなんだいっ、ヤケクソかいっ」
アランは(多分)蒼白になっている俺とは違い、逆に生き生きしていた。
「なら、僕もちょーっと過剰に遊んでやろうかなぁぁあああ。うん、今は左腕をもらっておくよ。右が残ってたら、まだ次も戦えるだろうしねぇええ」
正気とは思えないセリフを吐き出し、躍り込もうとする。
ヤツの狂気の笑み、そして持ち上がった白刃……危機のせいか妙に間延びして見えたが、これはまだ発動状態じゃないっ。単なる感覚的なものだ。
じゃなくて! 待て、ちょっと待て!!
この土壇場で、俺はエグいことに気付いた、気付いてしまったっ。
――俺は、こいつがまだ自分を殺さない気なのを、知っているわけだ!
となれば、今は本物の死の恐怖を味わうことにならないんじゃないか……向こうは殺す気ないんだからっ。
(き、気付くのが遅いわあっ)




