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狂気の剣

 

 ちょうど、マヤ様達が囚われた魔法陣の方を向いていたので、マヤ様を含む全員が、息を詰めたような顔で俺の背後を見ているのがわかった。

 当然、俺は振り向く手間すら惜しみ、そのまま大きく前へ跳躍した。


 こういう時は、内なる勘に従うに限る!


 跳躍の後で着地したら、そのままダッシュでマヤ様達の方へ走るつもりだったのだが、それは甘かったらしい。

 なぜなら空中にあってさえ、俺の背後から殺気が離れなかったからだ。


 ――敵は、俺とほぼ同じタイミングで跳躍した!?




 そこに思い至った瞬間、俺はぞっとして虚空で身をひねった。

 特に何か考えがあったわけではなく、「避けろおっ」と俺の内なる声が絶叫したせいだ。

 しかし、そうして正解だった。


「つっ!」


 唸りを上げて敵の剣が至近を掠め、俺の二の腕からぱっと鮮血が散った。幸い、傷は浅いが、動揺して着地に失敗し、俺は無様に石床に倒れてしまう。 

 本来、むちゃくちゃ痛いはずだったが、アドレナリンが噴き出しているせいか、ほぼ何も感じなかった。


 そのままゴロゴロと横に転がり、すぐに必死で跳ね起きる。

 そこへ待ってましたとばかりに、敵が踏み込んできた。


 狂気の笑いを浮かべたアラン・リムスキーが、着地と同時にこちらへ躍り込んできたのだ。こちらの背筋が寒くなるような殺気と共にっ。





「おわあっ」

「はははははっ、戦士将を見つけたあっ」


 手にした刀でガードするのと、ヤツの剣が勢いよく振り下ろされるのが、ほぼ同時だった。耳が痛くなるような金属と金属の激突音がして、俺達は鍔迫り合いの体勢にもつれ込む。


 目を見開き、黒髪を振り乱してゲラゲラ笑うアランは、どう見ても正気には見えなかった。やはりこいつは、とうに正気を失っているんだっ。


「で、出て行ったんじゃなかったのか!」

「いやぁ、その振りをしただけだよぉ、ナオヤ」


 アランは優しい声で答える。

 ただし、今この瞬間もクソ力で剣をぐいぐい押し込んできてるし、隙あらば俺を殺そうとしながら。

 当然、瞳には紛れもない殺意が浮かんでいたさ。


「さっき、壁を点検した時、やっぱり微かに貴方の気配を感じたように思った。だからさ、お膳立てさえしてあげれば、きっと出てきてくれるかなあって。嬉しいなあ、また会えてえっ」

「くっ」


 唖然とすることに、この俺が力負けし、押し返されてよろめいた。

 当然、次の瞬間にはアランが電光石火で斬りかかってくる。ほとんど煌めく一瞬の光かと思うような剣撃を、俺は辛うじて二度、三度と受ける。


 ちくしょうっ。こいつは強い上に、隙がないっ。


 さすがは肉の盾で、俺以上の年月を生き残っただけのことはあるっ。しかも、この寒気がするような殺気とスピードからして、俺より腕が上かもしれん。

 それでも俺は、あえて己を奮い立たせた。


「ちょ、調子に乗るなよ、アランっ。俺がいつまでも遠慮してると思ったら――うおっ」

 途端に横殴りの剣撃が襲ってきて、俺は危うく避けた。


「遠慮なんかする余裕あると思うのかい、戦士将っ。いや、ナオヤ!」


 アランがギラギラした目で叫んだ。

 



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