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訪れたチャンス

 まあ引いたとは言え、元が狭いので後ろに下がるのは無理で、せいぜい横にズレるくらいなんだが。


 そもそも、心配しすぎだろう。

 この覗き穴って、ピンホールカメラのレンズとタメを張るほど小さいんで、どう考えたってバレるわけない……バレないはず……バレないといいな。


 俺は気配を殺し、暗闇の中で呼吸音にすら気を遣った。


 だ、大丈夫だ、焦るな俺……だいたいこの壁だって、ちゃんと石壁を積み上げた裏側に通っているんだしな。ちょっとやそっとじゃ見つかるもんか。

 しかし、なんかふいに声が消えたな?

 アラン達、どうなったんだ。


 俺は我慢できずに、そぉおおっとまた覗き穴から外を見た。

 およ……マヤ様の方を向いてまたしても罵倒してる、ユメしか見えないぞ? 


 アランはどうし――うおうっ。


 目の前をいきなり、くすんだ色のシャツを着たアランが通り過ぎ、俺は声を上げそうになった。び、びびらすなよ、くそっ。

 しかもこいつ、手でペシペシと石壁をところ構わず叩いてるぞっ。

 まさか、反響でこの裏通路を見つけようとか、そんな高等テクニックか!?

 さすがに背筋に嫌な脂汗をかいたが……幸いこの裏通路の壁は、叩いたくらいで反響が変わるヤワなものじゃなかったらしい。


 アランはいきなり立ち止まって騒ぎ立てたりしなかったし、そうこうするうちにユメがヤツを呼んだ。





「もういいわ、アラン。ちょうど話が出たから、気配を感じたような気がしただけでしょう。それより、おまえは少しここで留守番してて!」

「どちらへ?」

 アランは首を傾げてユメのそばに戻った。


「それが、レイモンが未だに到着しないのよ。予定だと、とうにここへ来るはずなのに。どっかで罠にでもかかってるといけないから、見てくるわ」


 そう言うと、ユメはブツブツと「全く、ドジな側近ばかりなんだから!」とこぼしつつ、椅子代わりの魔獣から飛び降りた。

 ていうか、レイモンというと、ダンジョンに入る前に俺と殺し合いしかけた挙げ句、トンヅラしたヤツだよな。だとしたら、遅れてるのはそのせいだろう。


 なんだっていいが、上手い具合にユメが留守にしてくれそうで、これは助かるっ。

 おまけに余裕ぶっこいたユメ達は、盗み聞きしている俺がいるのも知らず、こんな会話をしてくれた。


「留守番はいいですが、非常時に捕虜を出す時は、どうします? まさかとは思いますが、連中がマヤを奪還するために押し寄せた場合、素早く移動させないといけません。幸い、この広間は出口が二カ所ありますし」


「そんな事態は起こらないと思うけど……まあ、教えておくわ。解除は簡単よ。魔法陣の南側に少し離れて小さな円形の模様があるでしょう? あれを足で擦って崩せば、すぐに本体ごと消えちゃうから。でも、本当にどうしようもなくなった時だけよ?」

「もちろんです! 僕はただ、万一にも恨み重なるマヤを逃がしたくないんです」


「おまえの恨みが深いのはわかってるわ」





 ――よっしゃあああ!

 俺は久方ぶりで会心の笑みを浮かべたねっ。

 これで、封じ込めている魔法陣の解除方法がわかったじゃないかっ。


 しかもしかもっ、ユメは一人で出て行ったわけではなく、ぷりぷりしながら「おまえ達も、三人ほどついてきてっ」と命じ、壁際でたむろってた傭兵を、残り二名にまで減らしてくれた。


 ぬう……気味が悪いほどツイてるぞ、俺……マジなのか、これ。


 現状、これで残りは、傭兵二人とアランだけだ。つっても、そのアランが問題なんだけどな。

 俺は、ヤツとの死闘を思い出して、顔をしかめた。


 こいつとやり合うのは気が進まないんだが……この際はしょうがないか。


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