捕虜でも元気に罵倒
なにせ、マヤ様は罵倒されて黙ってる人じゃないからな。
「誰が捕虜その一だ、ぶっさいくな寸足らずの幼女めっ」
「なんですってえっ!! どう見てもユメの方が美人だもんっ」
ユメが恐ろしい勢いでマヤ様の方を睨む。
……あ、それは駄目です。
思いっきり捕まってるのに、ユメを罵倒とか、危険すぎる。
しかし、マヤ様は全然たじろがない。
この広間には、ユメの配下もわらわらと控えているんだが、彼らが唖然とするほどの偉そうな態度だった。
「ふん、貴様の方が上とな!? このマヤと比較すること自体が、片腹痛いわっ」
そして、この揺るがぬ自信である。あまりにもブレないので、いっそ清々しい。
常に自信皆無の俺は、絶対こうはなれんな……。
「おまえ、殺してほしいのっ」
「どうせ、我々を人質にしてナオヤを誘き出そうという算段なのだろう。ならば、そう簡単に殺せまい?」
「決めつけない方がいいわね。多少、計画のズレがあっても、腹が立ったら殺すわよっ」
「では、やってみるがいい!! 先程のような不意打ちではなく、この結界から出して、尋常に勝負せよっ。まさか、民を率いる立場の者が、挑戦を逃げはすまいなっ」
マヤ様が全然めげずに挑戦すると、さすがにユメはむっとして、座っていた魔獣から飛び降りようとした。
見ていた俺は、当然、ひやひやしたっ。ああ、もうその辺でやめてくれぇ。
だって、さすがのマヤ様だって、こんな神モドキの幼女とやり合うのはヤバすぎるっ。俺だって全然自信ないんだしっ。
しかし幸か不幸か、胡散臭いアランがここでユメに進言した。
「ユメ様。お怒りならば、あのナオヤを見つけて引っ立ててから考えましょう。そのマヤの前で、ナオヤを殺すのも一興かと思います」
こ、こらあああああーーーっ。
しれっと言いやがるアランに、俺は一人、地団駄踏みそうになった。
ひ、人の命だと思って、気安く言ってんじゃねぇえええ。
「貴様、裏切った上に、そのセリフは許せぬっ。必ずそっ首を刎ねてやるからな!」
マヤ様が俺の代わりにガンガン怒鳴ってくれた。
もっとも、アラン本人は涼しい顔だったが。
ただ、アランの進言で、ユメが冷静になってくれたのは、助かった。この幼女は椅子代わりの魔獣から降りるの中断し、今一度、座り直してくれた。
「ふん。危うく挑発に乗って、おまえを殺すところだったわ」
マヤ様の方を見て、唇を歪める。
「だいたい、おまえの言い分が嘘なのは、わかってるのよ。だってユメがあの森の捜索を命じた時、おまえ達がいた付近で、配下達が血の跡を見つけたもん」
そこでレージの身を案じたのか、憤怒の表情になる。
「だから、嘘はだめっ。とっととパパの居場所を教えなさい。さもないと、全員捕まえて、一人ずつゴーモンしちゃうから!」
ゴ、ゴーモン……盗み聞いている俺は、背筋が冷たくなった。
自慢じゃないが、俺はすこぶる痛みに弱いんである。
虫歯になっても、歯医者に行く決心がつくまで半年はかかる。
「だから、レージは解放したと申したであろうっ。人の話を聞けえっ」
「もうっ。うるさいうるさいっ」
怒ったユメが手を一振りした途端、マヤ様の声がぴたりと止んだ。
まだ喚いているようだが、もはや聞こえない。多分、あの結界の外から出ないと、もうどうもならないのだろう。
ある意味、ほっとしたが……しかし、疑問も残る。
真面目な話、レージはどうしたんだ? 俺達は確かに解放したんだし、行方がわからないのは、どういうことだろう。




