動揺
しかし……いざ歩き出すと、この通路は予想以上に狭苦しくて、窮屈な場所だった。
ダンジョンのメイン通路は三人が横並びできたほどなのに、ここは俺一人がようやく通れるくらいの広さしかないし、天井も高くない。
ダンジョン内部の見張り用だと思った俺の推測は、多分、正しい気がする……あるいは、緊急脱出用か。
ただ、万一なにかの罠だったら、この狭苦しさからして自由に動けないから、身軽な俺だってヤバい。
なんて……歩き始めた途端、その危険性に気付いて戦慄した。
今更、遅いけどな。
ま、まあ……まさかこんなところまで、落とし穴や自動矢攻撃はないだろう……ないといいな、ないと願う。
ちょびっと弱気になったところで、微かな声がして、俺は飛び上がりそうになった。
慌ただしく前後を見たが、特に誰もいない。
しかし、ぼんやり光る通路の壁に、一カ所、赤い丸印があるのを見つけた。
「……なんだ?」
そばに寄ると、円形で書かれた○の真ん中に、小さな穴がある。
これは、もしかすると!
即、穴の向こうを覗いて見ると、案の定だった。
そこから、さっきまで歩いていたダンジョンの通路が見える! やっぱりここ、監視用の裏通路だったっ。
思わずガッツポーズ取りそうになったね。
でもって、さっき聞こえた声は、むさ苦しい格好の傭兵二人組だったらしい。
ちょうど俺が見ている覗き穴の前を、二人でキョロキョロしながら通っていった。
穴は小さいんで姿を追うのは無理だが、声のみはしばらく聞こえていたな……まあ、おおむね愚痴ばかりだったが。
しかし、聞き捨てならない声が最後にした。
『ったく、最後の五人だってのに、なかなか――』
聞こえたのはそのくらいだが……最後だぁ? おい……最後ってなんだ?
嫌な予感がして、その場でしばし考えてみた……五人……五人っていうのは――うおっ。
いきなり思い当たり、俺は冷や汗をかいた。
というのも、五人っていうのは、俺達を置いて行く前のサクラを含めた人数と、ばっちり一致するじゃないか!
つまり、俺とミュウとエルザとローズ、それにサクラだ。
もしかして今のセリフって……俺達が最後って意味じゃないのか。
急いで歩みを再開しながら、俺は自然と胸の鼓動が激しくなってきた。心配で、じっとしていられない。
予想通りそういう意味なら、もうダンジョン内に健在な味方はいなくて、残ってるのは俺達だけってことになる。
「な、ないない……絶対ない!」
危うく血まみれのマヤ様を想像しかけ、俺は慌てて首を振った。
余計なことは考えるな……もちろん、あんなタフな人が簡単に殺られるわけない。怪我だってするもんか、しないったらしないんだ!
自分に言い聞かせながら、俺は複雑に入り組んだ通路をどんどん歩いて行く。
途中、分岐点も幾つかあったんだが、上の空で適当に選んだ。
もちろん……これは大きな間違いだった。
俺はあのお方の心配をする前に、まず自分が注意するべきだったんだ。




