消えた!
「きゃあああっ」
「ひっ!?」
エルザの全力の絶叫と、そしてローズの半ば引きつった声……その二重奏が消えないうちに、俺は何も考えずに飛びつき、左右それぞれの手で、彼女達の腕を掴んでいた。
まさにギリギリだったし、タイミング的に、俺まで引きずられて落ちそうになった!
さすがに今の俺なら、女の子二人を引き上げるくらいの筋力はあるんだが、下が滑りやすい板石だったので、腹這いになった姿勢だと踏ん張りが効かないんである。
一応サクラも、直前で俺を止めようとはしてくれたのだが、それよりミュウの方が遥かに速かった。
「マスター!」
エルザとローズが落ちそうになった時はきょとんとしていた癖に、俺の時は電光石火で反応して、一瞬前の俺みたいに全力で飛びついて止めてくれた。
「ナ、ナイス、ミュウ!」
今度は俺が引きつった声で言った。
なにしろ、腹這いになった姿勢で穴の中を見ると、白刃が林立しているのがモロ見えだったので。落ちたら、アレで身体にザクザク穴が開いちまう。
俺の顔色を見て、ほっとしかけたエルザがうっかり下を見て、「いやぁああああっ」とまた悲鳴を上げた。
暴れようとしたので、慌てて止めたほどだ。
「馬鹿、よせエルザっ。ローズ、彼女を押さえててくれ!」
「は、はいっ」
辛うじてまだ冷静さを失っていなかったローズが、際どい焦ってエルザを抱きかかえた。
「落ち着きましょうっ」
「ご、ごめんっ」
「よし……それでいい、エルザ。ミュウ、そっと引き上げてくれ」
今頃になって、背中に密着したミュウの身体を意識しつつ、俺はなんとか冷静な声を出す。
「はぁい……なにがあっても、マスターだけは助けますから!」
気合いの入った声に、女性二人が喚いた。
「できれば我々も!」
「あたし達もようっ」
「大丈夫だ、俺が手を離さない限り、落ちないって。落ち着け、なっ」
暗に、「今ここで暴れたら死ぬから! 絶対死ぬから!!」と目で訴え、ようやく場が静かになった。もちろん、こういう時のミュウのパワーは凄まじく、トラックにロープ括り付けて引っ張り上げるような頼もしさがあった。
全然呼吸も乱さず、たちまち俺を含めた三名を穴の縁に上げてしまう。
「た、助かったぁ」
「い、命拾いしましたね」
半泣きでへたり込んだエルザに、いつも冷静なローズまで四つん這いのまま喘いでいる。それでも、ローズはさすがに礼儀正しく、その姿勢のままで俺に低頭してくれた。
「ありがとうございます、戦士将。ご恩はいつか必ず」
「い、いや……まあ、みんな無事で良かった」
俺はほっとして、自分もようやく立ち上がる。
深呼吸などしてテンションを整えている最中、ふと気付いた。
「あれ……サクラは?」
何気なくそこらを見回す。
しかし……サクラの姿はどこにもない。ダンジョンの前後は、きっぱりと無人である。
「ま、マジか!」
俺は思わず呻いた。
まさか、逃げたのかあいつっ。
いろいろあって書けずにいる間に、最新刊が出る直前です(汗)。今回も上条さんの美しいイラストに恵まれていますので、よろしければイラストだけでも見てきてください。オンライン書店などで、もう載ってると思います。……更新も、ボチボチしていきます。




