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油断禁物

 この質問に対して、多分俺は優に五分は悩んだ気がする。


 正直なところをぶちまければ、誰かのアドバイスが欲しかったほどだ。

 しかし……エルザ達にだって本当の意味での正解なんかわからないだろうし、管理モードの無機質な声に訊いたって、もちろんわかるわけない。


 危険性は最初から提示してるのだから、それが答えということだろう。

 最後は俺が決めるしかないわけで――考えた末に俺は結局、無理に元に戻すことを断念した。よく言えば「いきなりこうなったんだから、そのうちまた自然と戻るかも」という可能性に期待したわけで、悪く言えば、ミュウを永遠に失うことを恐れたのである。


 当たり前だが、人間より遥かに頑丈にできているミュウだって、不調を訴える時はあるし、身体を壊す(機械的な意味で壊れる)ことはある。

 歩けないとか話せないとか、そういう致命的な不調じゃないことを喜ぶしかないのかもしれない。




 一つほっとしたのは、管理モードから抜けて再起動を命じると、たちまち無機質な声はどこかに消えてしまい、元の優しい声に戻ったことだ。


「マスター! ミュウはどうでしたか~」


 少し心配そうに小首を傾げるミュウに、俺は答えてやった。

「いや、なにも心配なかったよ。ミュウは絶好調だった!」と。

 しばらく上目遣いに俺を見ていたミュウだが、笑顔で頷いてやると、ようやく安心したように笑った。


「よかったー。自分でも、特に異常があるとは思わなかったけれど、これでミュウも安心しましたぁ」


「うんうん、そうだね」

 ニコニコと腕組みしてくるミュウの頭を、俺は優しく撫でてあげた。





「――あのぉ」


 しんと見守っていた女性陣のうち、エルザが恐る恐る尋ねた。

「結局、今のミュウちゃんって、年齢はいくつなの?」

 俺に訊いた質問らしかったが、ミュウが聞きつけて俺の顔を見た。


「教えてあげて、いいですか?」

「いや」


 俺はきっぱりと首を振る。

 知りたくないというか……そもそも実年齢で言えば、本当はミュウってまだ生まれて二年くらいしか経ってないのはわかってるからな。

 なにせ、初対面の時で製造後一年未満とかの話だったし。


「俺がわかってりゃいいよ」

「そうですね!」


 嬉しそうにミュウが白い歯を見せる……ていうか、俺もAI内部の設定年齢が今いくつになってるのかなんて、知らないけどな。

 以前みたいに十六歳じゃないのは確かだろう。


「なによう、教えてくれたっていいのに、ケチ~」


 ぶつぶつ言いながらエルザがそばに来て、なぜか俺にリンゴを一つくれた。

「……なんだよ、これ?」


「なんだか落ち込んでるみたいだから、元気出しなさいよという意味」


 エルザがそっぽを向きつつ言う。

「二人で分けて食べなさい。今後はどうせ、保存食しかなくなるんだから」

「そ、そうか……そりゃありがとう」

 言われた通り、ミュウと分け合って食べた。


 ちょっと酸っぱい味がした。





 

 ほとんど食事だけささっと済ませて、俺達は再び外に出た。

 少し休んだことで一番消耗していたエルザもだいぶ元気を回復していて、「今なら、前衛だって務められる気がするわ~」などと脳天気なことを言い放ち、本当に先頭切って歩き出したほどだ。


「危ないですよっ」

 むしろ年下のローズが心配そうに声をかけて、エルザの横に並んでいた。

「二人で前衛やってくれるなら、別にそれでもいいな。楽だし」

 冗談交じりで俺が言うと、サクラが横目で見た。


「本気じゃないでしょうね? まだ少し、この地下通路を甘く見て――」


 言いかけ、そこで前を見て眉を上げ、「止まって!」といきなり声をかけた。




「え?」

「はい?」


 二人して振り返りかけたところで、いきなりエルザ達の足元が崩れた。

 畳数枚分くらいの広さで、ごそっと通路が抜けたのだ――ガラガラと音を立てて。


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