女子高生にあらず
サクラの遅すぎる警告は、しかしそれなりの緊迫感を俺達にもたらしてくれた。
なにしろ、いつ何時、どんな罠が待ち構えているかわからないのだ。
試しに「どういう種類の罠がある?」と訊くと、サクラは「さあ? わたしは仲間が敷設しているところを、ちらっと見ただけだから」なんて、無責任なことを吐かしやがる。
よくよく訊けば、どうもこの通路がバリバリ現役だった当時は、罠避けのパスみたいなのがあったらしい。魔力付与のかかったプレートみたいなやつで、それを持っていると、全然罠の心配なしに通れたのだとか。
「――だから、わたしはどんな罠があるかなんて、さして知らないの。一つ覚えてるのは、前に落とし天井みたいな仕掛けに、闇の軍勢の間抜けな兵士が引っかかって」
何事か思い出すように遠い目をする。
思い出す当時が、実は二千年以上前だって事実に、つい呆れる。
「……大量の石が降ってきて、頭から潰されるのは見たことあるわね。あれは、死体処理をする人が気の毒だったわ。木製の容器に入れて集めてたもの」
「おぃいいいいっ」
「もっと早く言ってください!」
俺とローズが同時に喚き、二人して天井を見上げちまったじゃないか。
天井はだいぶ上だが、見るからに重たい石が使われているので、落ちてきたら洒落にならないぞ。
飛び退くにしたって、限界あるし。
「発動スイッチがあるはずだから、せいぜい気をつけるしかないわね」
「スイッチって……さっきみたいにカチッて鳴るの?」
足元のアリを探すような目つきで、床石に注意を払ってたエルザが訊いた。ていうか、そんなスピードで歩いてたら、一キロ歩くのにどんだけかかるんだよ。
「そうとは限らないと思う……多分、余計なものを触ったりしても、まずいかもしれない」
「じゃなくて……その魔力付与のパスとか、持ってないのか?」
「今のわたしが持ってるはずないでしょ? 考えて言ってほしいわ」
馬鹿じゃないの! みたいな目で見られちまった。
切れ長の目をした美人だと、余計なダメージがきてたまらん。
「……そういうわけだから、注意はいるんだろうけど、下だけ見てても駄目っぽい感じだぞ」
俺はエルザに忠告してやったが、逆に睨まれた。
「だけど、のほほんと歩いていたら、また踏んじゃうかもしれないじゃない!」
「大丈夫です」
もう堂々と俺と腕を組んで歩いてるミュウが、笑顔で口を挟む。
「なにがあっても、ミュウがマスターを守ります」
俺が横目で見ると、微妙に言い直す。
「正確には、最優先はマスターで、ミュウの安全が二番目ですよ?」
可愛らしく首を傾げる。
これでいいですよねっ、と言いたそうに。これは……言葉に詰まるな。
「え、ええと……じゃあ、あたしはそのどれくらいの順番――」
ミュウに尋ねかけ、エルザは結局、言葉を呑み込んだ。
多分、返事が予想できたんだろうな。
それはいいけど、俺の右側に陣取っているミュウに対抗するように、エルザはヤケに俺の左側位置をキープするようになった。
身体をくっつける勢いなのを不思議に思って訊くと、「ナオヤに近いこの位置が、まだしも一番マシそうじゃない!」と怒ったように言われた。
……は? ああ、さっきみたいに俺がガードしろってことね。
少し考えて、ようやく得心した。
「その理屈だと、戦士将から離れてる私は、次に死んでしまうかもしれないじゃないですか!」
金髪のローズが振り向き、艶のある唇を尖らして文句つけてきた。おまけに、自分も俺のすぐ前まで下がってくるという……。
みんな、俺に期待しすぎだろ!
第一、前に立たれると、ローズのお尻見て歩いてるのも同然なんだけど、俺。
「即席ハーレムができて、よかったわね?」
先頭を歩くサクラが、また計ったようにイヤミを言う……いや、別にイヤミのつもりはないかもしれないけど。
心配事が多いせいか、俺は投げやりに言ってやった。
「なんなら、女子高生のサクラも入れてやろうか」
百パーセント冗談だし、そもそもハーレムなわけない。エルザもローズも、安全面を考えてるだけだしな。
ところが……なぜかサクラはむっとして、足を止めた。
「勘違いしてない? わたしはまだ中三で、十五歳なんだけど?」
『えーーーーーーーっ!』
俺とエルザが二人して叫ぶ。
いや、前にローズが「自分より年下に見える」とか言ったことがあるけど、俺はまるっきり信じてなかったからな。
こんな大人っぽい美人が、まだ中学生だとー。
絶対、高三くらいだと思ってたぞ。
すかさず「嘘だろー」と俺は言いかけたが、その前にローズが叫んだ。
「戦士将、それより前をっ。誰かこっちへ来ます!」




