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運命の分かれ道――その3



――その3




 結局、俺はミュウの提案を受け入れることにした。


 ……つーか、他に方法もなさそうだし。それに、万一後で魔王陛下からおとがめを受けそうな時は、全て自分が引っかぶればいいかとも思ったわけで。


 それにしても、ミュウは予想以上に凄い女の子だった。

 数時間ほど走って観察した結果、彼女は映画のターミネーターより性能は上だと思ったね。 

 なんせ、必死こいて馬を駆けさせている俺の横を、美しい前傾姿勢で併走しつつ、平然と息も切らさない。おまけに走ってるお陰で微妙に胸が揺れて、密かな目の保養にもなるときた!


 というか、むしろ騎乗してる俺の方が息が上がって来ちまった。

 ……馬に乗り慣れてないと、長時間走らせるだけでもかなり疲れるんだよ。



「こ、こりゃヤバいな……マヤ様を見つける前に、俺と馬の方がヘバりそうだ。まあ、あのお方はそう簡単に敵にやられたりしないだろうけど」

「ご心配なく」

 白銀の髪をなびかせて走りつつ、ミュウが冷静に言う。

「馬が走れなくなった時は、私がマスターを背負って差し上げます」

「うわぁ……それはそれで誘惑を覚えるな」

 軽口を叩きつつ、ようやく明るくなってきた夜空を見上げる。

「多分、俺達の直後に帝都を出たマヤ様達とは、元々そんなに離れてない――と思うんだが」


 問題は、GPSも携帯電話もないこの世界で、どうやってあのお方を見つけるかだ。

 軍勢と一緒だからそりゃ目立つはずだが、この国境付近の荒涼たる景色が続く辺りは、それこそどこまで馬を駆けても、景色が全く変わらないのだ。

 行けども行けども道なき石ころだらけの原野で、本当に進んでいるのか怪しくなってくるほどだ。


「それもご心配なく……集団で固まっているのなら、おそらく接近すれば私が見つけられると思います。熱源探知に引っかかりますから。北方にいるのが確かなら、迷う気遣いもないでしょう」

「おおっ、何という……頼もしい言葉!」

 息を切らせつつも、俺は激賞げきしょうする。

「めちゃくちゃ有能だな、ミュウっ。ボッチの俺には過ぎた相棒だ」

「……ボッチ?」

 器用にも走りながら尋ねるミュウに、俺はあっさり白状することにした。

 他の奴はともかく、この子にはなぜか素直に打ち明けることができたんだ。


「実は俺、元の世界では学校内のクラスで無茶苦茶孤立しててね。おまけに、両親はもう離婚しちまったし、親父は出張また出張で、実家には俺をゴミ呼ばわりする継母しかいない。あの召喚術は、住んでた世界に嫌気が差した奴を呼び寄せるらしいけど、まさに俺なんか典型だろうな。こっちでも散々ひどい目に遭ったし、何度も死にかけてるけど、それでも元の世界に帰りたいとは思わない。同じ地獄でも、自分が必要とされる分、まだこっちの方が遥かにマシだ」


「そう……ですか。一度も戻りたいと仰いませんから、奇妙だとは思いましたけど」

 ヒューマノイドのくせに、ミュウの声音は同情に満ちていた。

 愚痴を言ったみたいで気が引けたが……それにしてもこの子、信じられんくらい人間臭いな。

 ていうか、待てよ?


「あのさー……もしかして、ミュウも元の世界で嫌なことがあったんじゃないか? でなきゃ、こっちに飛ばされてないはずだしな」

 ちらりとこちらを見たけど、ミュウはすぐに答えなかった。

 猛スピードで走りつつも、うれい顔で俯いている。

「いや、別に言いたくなきゃ言わなくてもいいよ。今はそんな場合でもない――」


「元のマスターが」


「え、うんうん?」

 そろそろ尻が痛くなってきた俺は、慌てて意識を集中した。

 マヤ様のことも気になるけど、ミュウのことも気になる。

 相変わらずこちらを見ないまま、ミュウは早口で一気に言った。


「私は戦士として生み出されたはずなのに、政府高官が私を引き取り、ご自分の専用ボディーガードとしたのです。それでその……その方がひどく変わった方で、サイボーグですらない生身の人間なのにその……私に……その」


 段々声がか細くなって、消えてしまった。

 俺は嫌な予感がして、自分がヘバりかけているのを一瞬忘れた。まさか、知り合って間もないミュウのことで、ここまで腹が立つとは予想外だったが、実際にむかついたのだから仕方ない。


「……もしかしてその偉いさんとやらは、ミュウを押し倒そうとした?」


 ぼっと凄い勢いで真っ赤になり、ミュウは唐突にその場で立ち止まった。


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