手の込んだ入り口
俺は、突入した瞬間に闇の中に飛び込むような有様だろうと思っていたのだが――。
予想に反して、中はほんのりと明るかった。
洞窟というか、この通路は煉瓦みたいな石材で周囲を固められていて、思ったより立派なところだった。
しかも、五、六名が横に並べるほど広く、高さだって俺の身長の数倍はありそうだ。
おまけに左右の壁の上の方には、燭台みたいな金属の塊が突き出している場所が十メートル置きくらいにあって、その燭台には蝋燭の代わりにぼんやりした球形の明かりが灯っていた。
火が燃えているようにも見えないし、謎である。
「ど、どうなってんだ。ランプとかいらないのか、ここ!」
本当は立ち止まって調べたいところだが、背後からは「待てこらぁああああっ」という濁声が大量に追いかけてくるのである。
今足を止めると、必然的に斬り合いになり、さっきの二の舞だ。
幸い、俺の横を軽々と駆けながら、サクラが答えてくれた。
「あれは、当時の魔法使いが設置した、魔法の明かりよ。誰かが入れば、自然と灯るようになっているの」
「おい、先に言えよ、それを先によぉお!」
俺は思わず苦情を述べた……もちろん、足を止めずに。
ちなみに、通路が勾配のきつい下り坂なので、嫌でも速度アップしていく。
「真っ暗だと思ったから、かさばるランプとか用意してきただろっ」
事実、今も全員が、革製の背嚢みたいなのを背負っているんである。
「わたしがかけた魔法じゃないし、そこまで付与魔法が長く保つとは思わなかったのよ」
サクラは例によってしれっと言ってくれた。
「だから、用心のために持っていってもいいかもしれないと思ったの。まあ、わたしは最初から、ランプなんか荷物に入れてないけど」
――こ、こいつっ。
俺はかなりむっとした。そのうちスカートめくってやる!?
怒りをたぎらせていると、後ろの方で泣き声がした。
「ね、ねぇナオヤぁああ」
「どうした!?」
足を止めずに振り向くと、最後尾の方でエルザが半泣きになっていた。
「正直、もう疲れたんだけどっ。体力の限界よぅ」
「へばるのはやっ。日頃の鍛錬が足りないぞおっ」
思わず喚いたが、しかし限界が近いのはエルザの隣のネージュも同じらしい。
走るフォームが、既にへろへろである。
「安心しなさい」
今度は、珍しくサクラが微笑した。
「前を見て? どうせもうすぐ、走る必要なくなるから」
――えっ?
俺がまた前に向き直るのと、レイバーグが離れた場所から叫ぶのが同時だった。
「ちょっと! 前が……通路が、虚空で切れてるみたいだっ」
『えぇええええええっ』
……数名分くらいの悲鳴が、一斉に湧き起こった。
もちろん、俺も喚いたさ!
前の方を見ると、百メートルほど先で、ホントに通路がずばっと切れてるように見えたしな。なんかもう絶壁みたいになってて、その向こうは暗黒だ。
つまり、俺達は今、崖に向かって走ってるようなもんだ。
「どうなってんだ、サクラ!」
「大丈夫!」
今や生気に満ちた顔で、サクラが俺を見る。
「わたしを信じて、端まで来たら思い切って飛びなさいっ。ちゃんと道が続いてるから、死なないわ」
「つ、続いてるって言うけど、途中で切れてるようにしか見えんっ」
「いいからっ」
いや、よくないだろっ。
ここは立ち止まって、サクラに真偽を問い詰めるなり、斥候を出して確かめるなりしたいところだ。
だがくどいようだが、背後には追っ手が山のようにいるので、無理!
しかもあいつら、俺達を捕まえることだけ考えてて、まだ全然前方なんか見てないでやんの。
「よいではないか、ナオヤ!」
少し後ろの方から、マヤ様が晴れ晴れした声で叫んだ。
「本当かどうか、飛んでみればわかることだっ」
そりゃマヤ様は最悪、飛べるからいいですよ!
……俺は心の中で喚いていた。
「どうしますか、戦士将!」
いつの間に追いついたのか、背後からきりっとした声でローズが訊く。
「もう崖の縁まで目前ですっ」
「こうなったら、飛ぶしかないだろ!?」
俺は振り向きもせずに怒鳴った。
「万一、下が針の山だったら、その時はサクラのトコに化けて出るさ!」
完璧なヤケクソで叫び、俺は綺麗なフォームで身を躍らせたサクラに続き、そのまま虚空へと飛んだ
……これがまた、大失敗だった。
下は真っ暗で、深淵が広がっているだけだったのだ!




