突入
「あ、あたしは生きてるわよぉ」
両足を開いた間に腰を落とした姿勢でへばっていたエルザが、泣きそうな顔で手を上げて振った。
「あいつが何かする前に、また躓いちゃってて助かったわぁ」
――ておいっ。さっきのは俺の警告で伏せたんじゃないんかい!
思わず脱力したが、本人が慌てて言葉を重ねた。
「い、言っておくけど、警告通り伏せようとして、それで足がもつれたんだからっ」
「……あたしは、とっさにエルザを支えたせいで姿勢が低くなってて、同じく無事~」
エルザの横でネージュが、悪運の強さを自慢するようにぐっと親指を立てる。
「今回ばかりは、防御魔法使う暇がなかったから、この子の鈍くささに救われたわぁ」
「鈍くさくないわようっ。ちゃんとナオヤの声に反応したもの!」
エルザが膨れたが、ネージュは笑っているだけである。
あと、ローズはわざわざ俺のそばへ来て、低頭した。
「わ、私は、戦士将の声で助かりました」
「そうか、よかった」
俺はほっと息を吐く。
また蹴躓いたのかエルザっと呆れたいところだが、なんだっていいんだ、助かってくれさえいたら。
レイバーグも無事だし、どうやら誰も倒れてない。よしよし。
「みんな無事で上等――おぐっ」
「マヤの安否は訊かないのか、マヤの安否はっ。それがいっとう先であろう!」
子供みたいに膨れっ面になったマヤ様が、また人の首を思いっきり動かした。
「だから、首を無理に向けないでくださいっ。だいたいマヤ様は、見ればぴんぴんしてるのが、わかりますがなっ」
「マスターぁ」
また怪しい声がして、俺は慌てて脳天気なやりとりを中断した。
振り向けば、なぜか幼女みたいな笑顔のミュウが、俺の腕に自分の腕を絡めた。いつもはいきなりそんなことする子じゃないのに。
「あの人たち、マスターの敵? 悪い人たち?」
囁いた後で一転して表情が消え、むさい男どもを見る。
「ミュウがやっつけますか? ミュウ、マスターのために全部かたづけちゃう」
「いや……ていうか、なんでそんな話し方してるの?」
またしてもむくむくと嫌な予感がしたが、今はじりじりと迫りつつある傭兵集団の方がヤバい。人工兵士どもはほぼ全員が中に入った後だが、まだ順番待ちしてたこいつらが残ってる。
おまけに、今は冷静さを取り戻して、俺達にむかついてるらしい。
「てめえら、敵かあっ」
「全員、ぶっ殺す!」
「これだから、弱っちいのは……」
一人だけ悠然と立っていたサクラが、冷たく言う。
「敵との力量差もわからない馬鹿は、とっとと死になさい!」
手にしていた刀の切っ先を、すっと連中へ向ける。
「待てっ」
即座に走りだそうとしたところを、俺は寸前で腕を掴んで止めた。
「今は、逃げた方がいい。あのレイモンとかが味方を連れてまた戻ってきたら、どうする!」
「その時はまとめて片付けるわよ」
おぉ、しれっと言い切ったぞ、こいつ。
まだすげー数の敵がいるっていうのに、その自信が羨ましい。
「いや、それより任務だって、任務が先!」
さすがの俺も、ここではっきりと自己主張した。
「戦いたいなら、中へ入ってからもチャンスがある。今はともかく、迷路の中へ突入しよう、なっ!?」
懸命に言うと、ようやくサクラが肩をすくめた。
「まあ、ナオヤがそう言うなら」
「笑わせんなあっ、逃がすかこらあっ」
「ぶっ殺せぇえええ、特にそのむかつくミニの女っ(サクラか?)」
喚きながら駆け出した傭兵集団を見て、俺は率先して逃げた。
当然、いつの間にか俺の腕にすがりついていたミュウも走り出し、それを見て顔をしかめたマヤ様も走り出す。
ようやく危機に目覚めたのか、今や全員が一致して遁走していた。
「ネージュ、中へ入ったら暗いだろうから、魔法の明かりの用意っ」
「わ、わかったわ!」
「エルザも、今度はコケんなよっ」
「わかってるわよぅ」
目の前に、見る見るうちに岩の断面が迫ってきたが、俺は一切、足を緩めない。背後から敵が迫っているだけに、立ち止まっている場合じゃない。
ぶつかる寸前、目を閉じそうになったが、我慢して突入した。
――予想通り、特にぶち当たることもなく、そのまま岩をすり抜けられた。




