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運命の分かれ道――その2



――その2



「ヨルンの言う通りですし、現状はそれより遥かに厳しいかもしれません」


 元監督官のダヤンまで熱心に説得してくれた。

「コトは複雑で、仮に命令違反を犯してダークプリンセスがそれを許したとしても、魔界の法が掟破りを許さないのです……魔王陛下の定めた法では、命令無視はいかなる理由があろうと死罪ということになっています」

「うええっ」

 俺は思わず、声を上げたね……ああ、上げたとも!

 かっこわるいとか言ってる場合じゃない。まさか、そこまで厳しいとは思ってもみなかった!


「しかしっ。エルザの情報を聞いた後で、知らん顔なんてできないって」


「使いを出せばどうでしょう?」

 ギリアムが切々と説く。

「ダークプリンセスはもう帝都マヤを出立しているでしょうから、想定される行軍ルートに向けて、使者を出すのです。それで、責任を果たしたことになるのでは?」

「それが普通の対応だよな」

 気安くヨルンが頷いた。


「第一、仮にその死んだ捕虜がエルザに語った襲撃話とやらが本当だとして、奇蹟的にナオヤの救援が間に合ったとしてもだ――言っちゃ悪いが、一人で何ができる? どうしても駆けつけたいなら、俺達も一緒に行くしかないぞ」


 俺は意外な思いで、ヨルンの軽薄そうな顔を眺めた。

 いや、他の二人もはっとしたように奴に注目していた。

「……俺に同行したら、みんなにも罪が及ぶんじゃないのか?」

「まあ、そりゃな」

 うわ、あっさりと認めやがった。

「しかし、俺はどのみちおまえのお陰で、生涯奴隷の身から浮かび上がれたんだ。こんな時くらいは命を賭けないとな……へへっ」

 おいおい、そんなに見るなよな? 的な照れくさそうな目でヨルンが見返す。

 俺の中で、ヨルンの株が急上昇した瞬間である。


「そうですね、どうしてもという場合、我々も同行する他はありますまい」

「うむ。縛り首になるのも首をねられるのも、みんな一緒だ」


 うわっ、ギリアムとダヤンまで、気安くそんなことを。

 泡を食った俺は、慌てて手を振った。おまえら、熱血アニメの見過ぎじゃないのか!?

「ま、待て待て、待てっ。そもそもこの軍勢のほとんどは歩兵なんだ。駆けつけたって、どうせ間に合わないって」

「そりゃ、奴隷達の話だろ。俺達なら間に合う可能性はあるさ」

 ヨルンが素早く言い返す。

「俺とギリアムとダヤン……この三人は二等戦士だし、一応は奴隷を指揮する騎兵ってことになってるからな。最初から馬に乗ってるじゃん?」

「そうだ、我々なら間に合うかもしれない」

 最初は止めに回ってたギリアムも、今やすっかり乗り気である。

 こいつら、自分の命がかかってんのがわかってるのか。ボッチな俺と違って、ギリアムなんて家族もいそうなのにさ。


「みんな、冷静になれって」

 俺は加速度的に熱気が増していく軍議を、打ち切ることにした。

 今は何を言っても駄目っぽいから。

「とにかく、もうすぐ朝になる。それからもう一度集まろう……今はみんな、疲れて冷静な判断もできてない気がするんだ」

 三人とも不思議そうに俺を見たが、特に異論はでなかった。

 まあ、あんたがそう言うならと思ったのか、それぞれ自分の寝所に散っていく。

 篝火かがりびも幾つか消され、自然と陣地は元の静けさを取り戻した。



 俺も自分の場所に戻って寝転がったが、少しだけ寝た振りをして様子を窺った後――機を見てこっそり起き上がった。

 簡単な書き置きのみを残し、すぐに自分の馬をつないである場所まで行く。

 そう、どのみち俺の心は決まってたんだな……ただ、他人を巻き込むのがご免なだけで。


 だがしかし……なぜか馬を繋いだ場所には、例のぴっちりスーツ姿のミュウが待っていた。

(彼女は逃げる恐れが皆無だと思ってるんで、俺は他の奴隷と違って自由にさせてたのだ)


「行くんですか?」

 切れ長の瞳を見張って、静かに訊く。

「……どこへ?」

 すっとぼけると、なぜかくすっと笑われた。

「お忘れですか? 私がヒューマノイドだということを。人間の耳より遥かに聴力は上です。さっきの軍議の内容も、全て聞こえてました」

「そうか、なら隠しても無駄だな」

 俺は肩をすくめて苦笑する。

 ここで言い争いは厳禁だ。人が集まってくる恐れもあるしな。

 だから俺は、あっさり認めた。

「うん、行くよ。みんなには悪いが、巻き添えを作るのもご免だし、一人で行くつもりだ」

 最後の部分を特に強調する。

「私も同行します……戦力になる自信がありますし」

「そうだろうなぁ」

 なんせ本人曰く、「戦闘用のヒューマノイド」らしいしな。

 俺が口を開けた途端、ミュウは小声ながらきっぱりと言った。


「言い争うのはやめましょう。私は何としてもマスターについていくつもりですし、そのためなら手段を選びません。拒否すると言われるなら、大声で叫び、全軍を叩き起こします」


「うわっ、ミュウってそんなキャラだっけか」

 俺は困り果て、彫刻のような美貌を誇る彼女を見返す。

「まだ馬に乗り慣れてないんだよ。……後ろに人を乗せて駆け足とか無理ゲーすぎる」

 仕方ないので、正直に告げた。白状したくなかったのにさ。

 ところが、ミュウはまた微笑して首を振った。


「ご安心ください……私の足は馬より速いですわ」


 特に自慢そうな様子はなく、さらりと言ってのける。

 同時に浮かべた微笑に、俺は状況も忘れて少し見とれてしまった。



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