先行した敵
マヤ様とサクラ以外は、誰も彼もが行きたくなさそうだったが、もちろん俺はそのままこっそり接近することにした。
とにかく、どうあっても神器とやらは手に入れる必要がある。
そのためにはろくでもない地下迷宮に入るしかなく、迷う余地などない。万一、向こうが先に神器を見つけてしまえば全て終わりらしいし、なおさらだ。
「い、一応訊くけど、他の入り口とかないのか? 広い地下なんだろう?」
「それはあるわよ、もちろん」
サクラはあっさり頷き、馬上の俺達はいきなり明るい表情になった。
「おお、なんだよ! それを早く言えよっ。で、それはどこ――」
「悪いけど」
言いかけた俺を、涼しい顔でサクラが遮る。
夜風になびく黒髪を手で押さえたりして、こいつは馬に乗ってても、CM撮影中のモデルさんみたいである。
「わたしが正確に覚えている入り口は、今から行くところだけ」
「うぁあああ……がっかりすぎるわー」
馬で併走していたネージュが、本気でがっくりきていた。
ちなみに、もはやのんびりと馬車で移動している場合ではないので、今は馬車を引いていた二頭を外し、ネージュとローズがそれぞれ乗っている。
マヤ様は空いた馬がないので、やむなく俺と同乗である。
馬車はどうせ献上品なので、置いてきている。まあ、そんな余裕ないと思うが、立ち寄る暇がいつかできたら、取りに戻ればいいさ。
……で、ネージュと一緒にがっくりきてた俺は、しんねりと横目でサクラを見た。
「おまえ、わざとがっかりさせてない?」
「だから言ったでしょ! 二千年前の話だから、かつての記憶を正確に覚えているわけじゃないって」
「まあ、そりゃそうだろうけどさー」
文句を言いつつ、俺は街道沿いをひたすら南へ向かう。
ちょうど、右手(西側)に名前を忘れた山脈が南北に続いていて、俺達は今、その山脈沿いに南へ向かっている形だ。
サクラが言うには、問題の入り口は、この山脈の山肌にある洞窟だという。
しかも、一見すると大きな岩にしか見えず、未だに残留魔法で入り口が隠されているのだと。
進むにつれ、魔界特有のブラックウッドが群生している場所がちらほら見え始め、俺は少し気を持ち直した。
この地形なら、かなり近付いて観察できるかも――。
そして、なお一時間ほどかけて馬で接近し、俺達はついに問題の場所にごく近い位置まで来た。
サクラが言うには、街道そばにあったでっかい石(落石の跡?)を目印に山に分け入るということなので、途中の幹に馬を繋ぎ、そこからは全員が徒歩で接近した。
当然、各自が必要な荷物を背中などに背負って。
ろくな山道もないような場所だが、地上に近い山肌はまだブラックウッドが多く見られる場所であり、木々の間を選んで歩けば、少しずつ進めなくもない。
あと、これなら隠れながら接近することも可能だ。
そして……いやぁ、ついに到着してびっくりである。
「ホントにうじゃうじゃいるじゃないか!」
幹から顔を出した俺は、うんざりして呻く。
いやだって、下で目印になってた巨岩と似たような岩がこの先にあるんだが……その辺りに、前に見た黒い人造兵士がどっさりいるんである。
……あと、見るからに傭兵風の連中も、だいぶ多い。
全員、大岩の後ろに回った辺りでふっつり列が途切れていた。おそらく、あの裏に入り口があるのだろう。
「それにしても、数が多いなあっ」
「だから、そう言ったじゃない!」
俺の隣へ寄ってきたエルザが、すかさず反応する。
「しかし、よくこんな集団見つけたな?」
「あたしが通った時は、もっともっと、もーーっといたのよ。下の街道にまで、列作ってたくらい。だからすぐわかったの」
「なるほど……じゃあ、俺達が着いた今この瞬間、もうかなり大勢が中へ入ってしまったわけだ? めでたい話で」
ぶつくさボヤき、俺はなおも巨岩の付近を観察する。
すると、傭兵連中を監督するためか、中世風のスーツを着たダークピラーのレイモン? らしき男もいて、しきりに命令を下していることに気付いた。しかも、やたら大声で喚いているので、よく聞こえること。
「その調子で整然と並び、可及的速やかに中へ入るのだっ。先行したユメ様に遅れをとってはいかんぞ!」
「おおっ」
俺は思わず、暗闇でガッツポーズを取ったね!
「ユメは、もう先に入ってるってさっ」
「……それ、ボク達にとって朗報になるかなあ?」
レイバーグがため息まじりに口を出す。
「つまり中へ入ったら、即座に邪神の子と出くわす可能性もあるわけだよね……下手をすると、逃げ場もあまりないような地下で?」
「おまけに、現状でもまだレイモンと傭兵部隊と、それからホムンクルスがどっさりよ」
サクラが畳みかけるように指摘しくさった。
「難易度から言えば、今だってかなりのものよね」
「君ら、俺を絶望に突き落として、そんなに楽しいかっ」
思わず喚きそうになった俺である。




