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敵がうじゃうじゃ

 ……俺の祈りが届いたのか、道中、三日目までは特に何事もなかった。

 しかし翌日には現場に着くという、まさにその三日目の夜、なぜか俺は泣きそうな声で起こされたのだな。




 その夜は宿泊に都合よさそうな村や街がなかったので、馬車内で寝ていたマヤ様を除き、全員が野営というか、野宿中だった。

 街道から少し離れた、眠るのにマシそうな場所を選び、星空の下で眠るわけである。


 俺は割と寒さに強い方ではあるが、冬も近いし、さすがに冷気が身に染みていた。凍えながら起きると、ここにいないはずのエルザが座り込んでいて、俺の肩を揺さぶっていたんである。





「起きて起きて起きてえっ」


「……ええと、夢?」

 身体を動かす度に胸が揺れるのを見て、俺は寝ぼけ眼でそう呟いた。

 防寒用にローブは纏ってるけど、その下は相変わらず、胸元の目立つドレス姿である。とても、魔族軍の特等戦士には見えん。


「ひ、人の胸をじろじろ見てないで、ちゃんと起きてっ」


 べしべしと額を叩かれ、ようやく俺は跳ね起きた。

「ゆ、夢じゃないのか! なんだよ、なんでエルザがいるんだっ」

「それは、ギリアムさんにナオヤの応援に行けって言われて――て、そんなこと、今はどうでもいいのっ」

 エルザは大きく息を吸い込むと、いきなり言ってくれた。


「て、敵よ敵っ。敵が大勢、領内に侵入してるわっ」


「な、なんだってえ!」

 さすがにこれは完全に目が覚めた。

 俺の素っ頓狂な声を聞きつけたのか、早速サクラもそばに寄ってきた。さすがにこいつは寝ぼけてない。既に刀の柄に手をかけているくらいだ。


「なにごと?」


 俺は彼女に片手を上げ、まずはエルザを促した。

「何を見たのか、教えてくれ!」





 ――エルザの話は簡潔だった。

 まず、本人の申告通り、エルザは俺達が送った使者の話を聞いたギリアムが、「これは助けがいりそうだ」と思って、派遣することに決めたらしい。

 本当は本人が行きたかったそうだが、しかし彼がいなくなると、まだ砦でがんばっている九千に近い大軍を監督する奴がいなくなる。

 それで渋々残ったらしい。


『エルザを送り出すのも命令違反かもしれませんが、どうしても心配でした。お叱りは後でいかほどにも』とは本人からの言付けだが、まあ心配性の彼らしいし、普通に有り難い話である。

 当然俺も、いちいちそんなことで怒らない。



 問題は、エルザが道中で見た敵だ。

 ちなみに彼女は、俺達が宿泊した街を目指していて、下手すると行き違いになるところだったんである。

 ただ、途中でルクレシオンと魔界との国境に南北に走る山脈があって、エルザの通った街道は途中まで南から北へとその山脈沿いにある。

 そして、俺達と違って野宿が嫌なエルザは、夜も単騎で山脈沿いを進んでいたのだが、その途中で敵の軍勢を見たらしい。


 ……嫌過ぎることに、だいたいの場所を聞くと、俺達が目指す目的地とほぼ一致することがわかった。

 多分、ここから馬で数時間くらいの距離だ。


 ちくしょう、最後の日だからとのんびり大休止してないで、まず先に現場へ急行すべきだった!






「こ、これはまずいかも」

 すっかり目が覚めた俺は、開口一番、口走った。


 言うまでもないが、目指す目的地に敵がもう来ているなら、それが偶然であるはずはない。当然、向こうも俺達と同じく、そこを目指していたわけだ!


 一応、そばには防寒のために小さなたき火があるのだが、暖をとっても少しもぬくもらない。今の話のお陰で骨まで凍えたぞ、くそっ。皆も同じ気持ちなのか、のんびり座っている者は一人もいない。総立ちである。


 既にマヤ様を含めて全員が目覚めて寄ってきていたので、俺は皆に聞かせるつもりで、もう一度、エルザを促した。


「確かなんだな? 確かにユメとその配下がいたって!?」

「いたいた、いたのよ! 本気でいましたっ」


 エルザは小刻みに何度も頷く。

「なにしろ、電撃食らってかっこわるく失神しちゃったくらいだもの……あの黒い子の姿は忘れないわよっ」


「して、敵の兵力はっ」 


 腰に片手を当てて仁王立ちしていたマヤ様が、鋭く口を挟んだ。

「えっ……ええと」

 エルザがビビりつつも応じる。


「た、多分、ユメとレイモンとかいう男と、それからホムンクルスみたいなのがうじゃうじゃ一杯いましたー」


「う、うじゃうじゃ?」

 俺はぞっとして呟いた。


 速攻で逃げたいところだが、無論、逃げるわけにはいかないのが辛いところだ。


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