ゴマすりな人達
食事が終わると、いよいよ居座ったホテルを出たのだが――。
……呆れたのは、ほとんどホテルに籠もりきりだったのに、なぜかマヤ様がここに宿泊していたことを知る者が多かったことだ。
というのも、、通りに出ると街の有力者がこぞって食料や馬、それに豪華な馬車などを献上しに来ていて、ちょっとした騒ぎになっていたのだな……頭が痛いことに。
マヤ様が即位してから何度か似た光景を見たので、俺には予想もつくのである。
「なんの騒ぎなのよ」
いつも不機嫌そうなサクラが、今回は一段と機嫌悪そうに集まったおっさん連中を眺めている。
そいつらはセーラー服姿のサクラを見てニヤニヤしていたが、後からマヤ様が出てきた途端、あっという間に路上に平伏した。
ホント、額を路上に擦りつける勢いである。
……だから、マヤ様の所在を大声で宣伝するような真似をするなというのに。
しかし、これは突き詰めて言えば俺の責任かもしれない。
マヤ様のように魔界一目立つ人が滞在すれば、噂がたちまち広がるのは、目に見えていたのだ。
まぁ今更愚痴ってもどうにもならず、俺達は献上品の馬を人数分だけ有り難く頂き、食料も各自で馬に積み込み、馬車はマヤ様用にと――たちまち交通手段が整った。
どのみち最初から歩いて向かう気はなかったものの、いちいち馬などの手配に時間を割く必要がなくなったのは助かった。
めんどくさいのは、マヤ様に言上しても無駄であり、しかも下手すると首が飛ぶとみんな知っているらしいことだ。
そこで、献上品を持って集まった連中は、例外なく俺に取り次ぎを頼むのである。
例えば、以下のごとく。
「陛下の治世のお陰で、街の責任者(町長ってことかね)を務めます、某であります。どうか、戦士将様の方から、ぜひ陛下にこの目録を――」
てなことを囁き、献上品を書いたお品書きみたいなのを俺に渡そうとする。
さらに、人の耳元で自分の名前を連呼するわ、いい年したおっさんがリアルで揉み手を見せるわ、「おそばの世話にでも」なんて言って、俺に水着みたいな衣装の美人奴隷を押しつけようとするわ……まあ、最後のはちょっと誘惑を覚えたけど。
どいつもこいつも、俺を介してでも、マヤ様に少しでも自分の存在をアピールしたいらしい。
いや、魔王っていい商売だと思ったね!
しかもだ、俺に渡すその目録とやらに添えて、そっと金を包んだ布袋を押しつける奴までいる。
「くくく……これは戦士将様への見舞金です」
なんて、愛想笑いを全開にしてさ。
まさかこの俺に、時代劇の悪役代官の気持ちがわかる日が来るとは。
もちろん、不機嫌そうなローズに言い訳するまでもなく、今回に限らず、俺はもらった品は全部マヤ様にそのまま報告することにしている。
そこで今回も、「あれらを全部くれるそうです」と超適当に、そのまま報告した。
見れば、なにがあるかわかるし。
マヤ様本人はサバサバしたもので、今回もいつもと同じく、「くれるというのなら、全部もらっておけばよい」とあっさり言ってくれた。
「馬などはすぐに役に立つし、ナオヤに賄賂を贈る者がいても、気にせず受け取ってよい。その代わり、過剰な賄賂を寄越した者の名前は、後でマヤに知らせよ」
不吉な言葉の後で俺を見て、「ただし、例外的に女奴隷は駄目だぞ。すぐに返せ、戻せ!」とぶっすり釘も刺してくれたが……だから、それはもらってないというのに。
それと、いま凄みのある目つきで、ざっとゴマすり集団を眺めたな。
……この賄賂の山、どう考えても逆効果やん。
マヤ様ときたら、ご自分の都合に応じて自儘な要求をする割に、率先してゴマをすってくる奴は気に入らないらしい。
潔癖なのかわがままなのかわからん……まあ、後者だろうけど。
とにかく、いつまで経ってもわいわい集まってくるゴマすりどもがうるさくなり、俺はさっさともらった馬に跨がった。
マヤ様は馬車に乗って頂き、御者はネージュとローズに務めてもらった。
サクラは案内役なので、当然ながら単騎で俺やレイバーグと併走する……逃げられたら困るからな。
「逃げないから安心なさいな」
「わっ」
考えていたことをずばりサクラに言い当てられ、俺は思わず鞍上で飛び上がりそうになった。
「な、なんでそう思ってるのがわかった!?」
「……貴方の顔はわかりやすいわ」
マヤ様そっくりなことを吐かし、サクラはさっさと馬を進めた。
もちろん、俺達も慌てて後に続く。
……どうでもいいが、セーラー服で馬に乗ると、太股のだいぶ上の方まで見えて、目に毒だ……なるべく目を逸らしておこう……無理っぽいが。
あと、以前聞いた話じゃ、神器がある地下への入り口まで、馬で三日くらいかかるそうだが……何事もなく着きますように。




