斜め方向からの励まし
なんとか自分にそう言い聞かせた後――俺達は一階のホテル直営レストランへ集合した。無論、朝食を摂るためだ。
この後、もう出発だし。
そこで俺は、同席したみんなにもネージュから聞いた情報を話してやった。
密かに心配したように、サクラがへそを曲げるということは、幸いなかった。
「……レージが支城に戻ってない?」
最初こそそう訊いたが、俺が頷くとむっつりとしばらく考え……やがてあっさりとこう言ってのけた。
「まあ……今更、どうしようもないわね。捕虜だったのを解放してあげたんだから、そこから先は彼次第だし」
えっ、そんなドライな考え方でいいの!? と俺が唖然とするような反応である。
しかし本人は既に何事もなかったように、魔界産の見栄えの悪い野菜サラダをかき回している。
気になったのか、たまたま長テーブルの正面に座っていたレイバーグが、尋ねたほどだ。
「知人でしょ? 彼がどうなったのか、気にならないのかい?」
「ええ、気にならないわね」
醒めた声でそう言ってのけ、もはやレージの話題には全然関心なさげに振る舞っている。ひょっとしたらツンデレ性格かなんかでそういう風に装っているだけかもしれないが、だとしたら、完璧な演技だと言えよう。
「それよりマヤは、ナオヤが落ち込んでいるのが気になるぞ」
ここで、最初から横目で大注目していたマヤ様が、俺の脇腹をつついた。
(まだ朝だというのに)既に四枚目のステーキを平らげるところだったが、一人だけ紅茶のみを啜っている俺が気になるらしい。
「どうせミュウのことだろうが、あの女なら大丈夫であろう。いちいち落ち込むでない」
「そ、そう思いたいんですが……」
我ながら沈んだ声で応えると、マヤ様は不機嫌そうに俺を睨んだ後、なぜか意味不明なことを述べた。
「ったく……なんでこのマヤが、よりにもよって、ミュウのためにそこまでせねばならぬのか」
「……は?」
「は、ではない。食事の後で使者を出し、マヤの命令としてミュウを探させようというのだ!」
怒ったように言われる。
そんなの、教えてくれないとわからないよっ。
「ええっ」
しかしさすがに驚き、俺は隣のマヤ様に向き直った。
魔界の支配者である魔王が、単なる臣下……いや、陪臣であるミュウのために、そこまでしてくれるとはっ!?
「他ならぬ、魔王の捜索命令だ。布告を出せば、大勢が探すはず。まだ魔界内にいるなら、そう遠からず見つかるであろう」
驚き顔の俺から目を逸らし、マヤ様はフォークで分厚い肉を乱暴につついた。
「だから、そんな顔はよせというのだ! 肉がまずくなるではないかっ」
……いや、そんなこと言いつつ、もうステーキは五枚目にかかっているわけですが。
しかし、これはちょっと感動した! でも、いいんだろうか。
「う、嬉しいことですが……しかし統制上から言えば、そういうのは臣下達の不満を集めるような気も」
「世迷い言を言うでない!」
不機嫌そのものの顔で一喝するマヤ様である。
「マヤの直臣は未だにナオヤしかおらぬし、これはミュウのためではなく、その唯一の直臣のためだ。だいたい、魔界ではマヤが掟だと何度言えばわかるのだっ」
ふんっと鼻息も荒く豊かな胸を張る。
「ナオヤ以外の者がどう思おうと、知ったことではない。マヤは常に、自分がよいと思ったことを実行するのみだ」
「かっ……かっこいい……です」
俺ではなく、ネージュが呻くように言う。
いや、実を言うとローズやレイバーグもあんぐりと口を開けてマヤ様を見ていたし、サクラですら、サラダをかき回すのをやめてこっち見たぞ。
瞠目する速度で五枚目のステーキを噛み千切っていたマヤ様は、皆が注目するのを見て、鼻息も荒くそっぽを向いた。
照れたらしく、ちょっと頬が赤くなった。
「だ、だが、考えてみれば、確かに理不尽な話ではある。このマヤがそんな余計なことをするのだからな。だからナオヤは、いつものアレをまた今夜するように!」
「いつものアレっ」
今度は斜め前のローズが呻いて、真っ赤になった。
「今夜……する……のですか」
絶対勘違いしてるな、この子。
しかも、黙ってりゃいいのに、上目遣いに俺を見た。
「アレと言いますと……その……契りのことですか」
「ち、違うわあっ」
クソ真面目に訊き返しやがったローズに、俺は思いっきり唾を飛ばす。
とはいえ、いつの間にか気力が戻っていたのを感じ、俺は今更のように手元のパンを手に取った。いきなり腹が減ってきたな。よし、今のうちに食っておこう!




