モブな人じゃ無理
「四人? なんで四人限定なの?」
レイバーグが心配そうに尋ねる。
「神器が四つだから」
……いや、それだけでは具体的なイメージが。
俺の不満顔を見て、サクラがようやくめんどくさそうに教えてくれた。
「邪神ヴァレンティーヌ(ユメの前世)と敵対する、アフランという名の光の神がいて、それがロクストン帝国時代に信仰されていた大神なのよ。アフランは当時、暴れまくっていた邪神に苦しめられる人間を哀れみ、これを封印するため、人間達に四つの神器を授けたそうよ。そういうことすると、今度は神同士の戦いになってしまうから、本来はルール違反なんだけどね。――それはともかく、そこでわたし達生き残りのブレイブハートが、ユメとの最後の戦いでそれを使ったわけ。その神器を使う人数が、最低四人いるということ。これでわかったかしら?」
「待て!」
俺の左隣で、いきなりマヤ様が身を乗り出した。
「封印と言ったのか? マヤ達はあの女を倒したいのだぞ?」
「それは不可能ね」
……これまた、きっぱりはっきり、サクラが言い返した。
サクラはマヤ様にも全然物怖じしないので、見てる俺がハラハラする。
「だって、相手は仮にも本物の神だもの。邪神だの暗黒の女神だのと呼んでいるのは人間側の方であって、ユメの魂が神の座にあることは否定できないわ。……つまり、完全に倒す手段なんかない」
「しかしだな――」
「ま、まあまあ」
俺はマヤ様を抑え、急いで正面のサクラに尋ねた。
「殺せなくても、封印したら問題なくなるわけだな?」
「……封印場所から、誰かが無理に魂を解放しない限りはね。以前はユメの信者がそれをやって、彼女の魂を新たな転生という形で解放してしまった。しかもその転生体を、信者が異世界の日本にまで連れて逃げちゃったし」
「解放されたユメは、元の肉体のままでは、活動できなかったの?」
風呂上がりのふざけたローズが、遠慮がちに尋ねた。
「無理。いざ封印が完成したら、それを物理的に破るのは不可能なの。せいぜいできるのは、封印されてしまった肉体は諦めて、魂だけを分離すること。それなら、転生の儀式を経て蘇らせることが可能よ」
サクラは優雅に肩をすくめた。
「おそらく今から向かう場所には、未だにユメの肉体だけは残っているはずだわ」
げっ……それは不気味だなと思ったが、ドライなローズがあっさりと言ってくれた。
「古い肉体があっても、脅威じゃないなら問題ないでしょう。それで、その神器とやらはどこに?」
「かつて人間が隠れ住んでいた地下の迷宮深くよ」
俺はへーと思っただけだが、マヤ様が顔をしかめて訊いた。
「大昔には、人間が地下に隠れ住んでたと申すか?」
「――そういうことじゃなくて」
どう説明したものか悩むように、サクラがちょっと考え込んだ。
「当時のユメが地上で暴れまくるものだから、やむなく地下に避難して生活していた時期があるのよ。かつては、世界中で地下に潜みつつ抵抗運動してたから、今の時代の人が知らないだけで、この大陸の地下には、今でもかなり広大な迷宮が広がっているわね」
ああ、リベレーターの時も似た話を聞いたな。
俺は大いに納得して頷き、さらに突っ込んで訊いた。
「それって、カッパドキアの遺跡みたいな感じか?」
前に世界遺産の番組で見た、奇妙な地下世界を思い出したんで。
他のみんなはきょとんとしていたが、サクラには通じるはずだ。
「あれに近いといえば近いけど、規模や広さや深さが、段違いね……だって、昔はホムンクルス技術が発達してたから、掘るのに人力だけに頼る必要ないもの。それに、神器のある場所は、元から地下空洞が広がっていた場所だし」
「なるほど……」
「納得しているのはいいけど、わたしの言ったこと覚えてる?」
眉をひそめてサクラが問い返す。
「今のままだと、全然人数が足りないわよ!」
「最低四人いるって話か?」
「ただ四人いれば事足りるわけじゃなくて、ブレイブハートに匹敵する戦士がいるのよ!」
サクラは駄目押しに強調した。
「神器を扱うには、それなりの潜在力が必要ですからね! 今の世界にあるリングマジックで見れば参考になると思うけど、せめてわたしと同格か、それに近い技量がないと神器が反応しないわ」
「おいおいっ」
思わず声を上げたが、サクラは真剣だった。
「嘘じゃないわよ、こんなことでデタラメ言っても、仕方ないもの。だいたい、神器を使う以前に、戦ってユメを弱らせる必要もあるしね」
「え、マジでっ。大変そうじゃないか!?」
聞いてないよという気分で、俺達は一斉にサクラを見る。
負けずにサクラの方も、俺達を睨み返しやがったけどな。
「仮にもユメを相手に、蚊を叩くみたいにお手軽にいくもんですかっ。邪神を封印しようなんて大それたこと、そこらのモブな人に務まるわけないでしょ? それこそ幻想ってもんよ!」
「……うっ」
ローズが口を半開きにしてサクラを見ていた。
自分を上回る傲慢な言い方に、呆れたらしい。




