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「わたしがそんなヘマをするわけないでしょ!」


 ぴしりとサクラが言い返し、西の方角を指差す。


「いいからレージは、さっさと逃げなさい。支城の方角は向こうだから、そっちへ行けば助かるはず――」




「待て待て待てっ」

 矢継ぎ早に勝手な指示を出すサクラに、レージが慌てて口を挟む。

「おまえ、本当に彼らと一緒に行くつもりかっ。作戦だと思ってたけど、マジなのか」

「作戦じゃないわよ。本当にもう、ここにわたしの居場所はないの」


「俺がなんとかするって!」


 懸命な表情でレージがサクラの手を握る。

「ちょっとレージっ」

 普段はそんなことする性格じゃないのか、サクラ本人も驚いた様子だった。


 信じられないような表情で、レージを見ている。ただ、手を引っ込めることまではしなかった。

「最初はともかく、今の俺はおまえを仲間だと思ってるんだ! それに、同じ日本人じゃないかっ」

「……わたしには、この世界の前世の記憶もあるけどね」

 サクラが苦笑して囁く。



「でも、確かにレージは、わたしと出会った最初からいつもわたしのわがままを聞いてくれたわね。最近じゃ、さりげなくユメ達からかばってくれたことも多かったし、あなたにだけは感謝しているわ。だからほら、もう行きなさい!」


 言うだけ言うと、サクラはレージの手を自ら外し、数歩下がった。

「これはもう、どうにもならないことなのよ。あなたを解放させたのは、せめてものわたしのお礼だと思って欲しいわ」

「しかしっ」


「もういいだろう!」


 痺れが切れたらしく、マヤ様が二人の間に割り込んだ。

「おまえはとっとと戻るがいい。以後は、マヤ達の問題だっ」




「ナオヤっ、急いで! 本当に気配が近いっ」

 レイバーグが鋭く指摘する。

「今すぐ逃げないと、ボク達まで捕まるよっ」

「わかってる!」

 俺はレイバーグに答え、まだサクラに近付こうとするレージの前に立つ。

「できれば戦いたくないけど、互いに退く気がないなら、もうどうしようもない。せめて、あんたは被害を抑えるように努力してくれっ。俺もそうするから!」

 早口で、しかしあくまでレージにだけ聞こえるように囁く。


「おい、今になって勝手なこと言うなっ。それより、サクラは諦めて、おまえ達こそ俺達に降伏しないか? 言っておくが、ユメの力はおまえ達が想像する以上なんだぞ。このまま続けば、今後はもっと死人が出る! しかも大勢っ」


 あいにく向こうは、逆に必死で俺に説いてきた。

 間違いなく、この時のレージは本気だったと思う。


「俺の言うことなら、ユメは必ず耳を貸してくれる。降伏してくれたら、おまえやマヤって子や他の仲間にも、絶対に悪いようにはしないっ。約束するよ!」


 一瞬、頭に血が上りかけたが……俺は無駄に罵倒することは控えた。

 このレージと俺は、言ってみれば似たような立場なのだ。おそらくこいつも、自分よりユメを基準に考える癖がついているのだろう。

 それがわかっているから、俺としてはこう言うしかない。




「なら訊くが、あんたが逆の立場で、もし俺がそう提案したら……あんたなら降伏するのか?」


 あとは反応を見ず、俺はすぐにレージを押しのけた。

 そして、断固として全員に告げる。


「ここまでだっ。みんな、退くぞ!」


 俺の号令に従い、全員が走り出した。


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