チクタクチクタク
「よくわからないわね、大昔の勇者さん」
俺が考えている間に、ネージュが小首を傾げた。
「もう少しヒントないのかしら?」
「もう金輪際ないわよ、そんなの」
きっついサクラが、相変わらずきっつい返事をした。
「それと言い忘れたけど、のんびり考えてる時間も、既にないのよ」
「どういう意味ですか!?」
既に周囲を警戒モードだったローズが、素早く尋ねた。
「わたしは見張られているって言ったでしょ」
気怠い声でサクラが言う。最近の勇者は、投げやりなのが流行ってんのか。レイバーグも前にこんなんだったしな。
それでも俺は、「だから?」と促してやった。なんか気になるしな。
「見張りは途中で巻いたけど、そろそろ兵士達が大挙して探しに来る頃よ。こんなところを見られたら、たちまち大乱闘になるでしょうね」
そこで含み笑いを洩らして俺を見る。
「これも、脅しじゃなくて、本当ですからね」
「うわぁ、タチが悪いな、ちくしょう!」
思わず呻いちまった。
最悪なのは、おそらくサクラの指摘は事実だろうってことだ。
考えろ考えろ、俺。今、何が一番優先だ? 意地を張ってレージを断固確保するのはいいが、サクラの言い分が本当だったらどうする? そしたらレージにこだわる意味などないし、挙げ句の果てにサクラは去り、ユメを倒す有効な手段も永遠にわからないかもしれない。
それは絶対に避けないといけない。
しかし、サクラはいかにも本当そうな顔つきで、しれっと大嘘言いそうな気もするんだな。だいたい、美人は迂闊に信じるなってのが、小学校以来の俺の持論だ。
「チクタクチクタク……ナオヤ、悪いけど時間切れが迫っているわ」
サクラがふいに笑えないことを言って、暗い木立の向こうを指差す。
「はぁ?」
「はぁじゃないのよ。ナオヤとそのレイバーグという人なら、まさに今、運命が迫る気配がしないかしらね?」
――うわ、マジだ!
俺はたちまち我に返った。ほぼ同時に、レイバーグが警戒の声を上げる。
「ナオヤっ。多数の気配が近づいてるっ。少なくとも、彼女が追っ手について言ったことは本当だ!」
この瞬間、一斉に「どうするんだっ」という目つきで皆が俺を見た。
お、俺みたいな優柔不断が決断するのかって思うが、しかし「俺に任せてください」とさっきマヤ様に言ったばかりだしな。
「ええい、もうっ! なんで俺みたいな奴がこんな決断をっ」
俺はいきなりサクラを指さした。
「おまえは初対面で不意打ちした時、俺を殺すこともできたのに、しなかった! だから、今もおまえを信じることにするっ。協力してくれるなら、要求通りにレージを解放するっ」
「本気か、ナオヤ!」
「きゃー、ナオヤ君、思い切りすぎぃいい」
「ナオヤ、いいのかいっ」
「戦士将、本気ですか!」
「俺の意思はどうなってるんだっ」
最後のレージはどうでもいいが、他の連中は全員で声を合わせるなあっ。
「本人も迷ってるのに、言ってくれんなようっ」
我ながら情けない声が出たが、少なくともサクラの反応は素早かった。
一瞬、切れ長の目を見開いて俺を見た後、どこか寂しそうに笑った。そう、ヤケに達観した顔で笑ったのだ。
次に、レージの前まで歩み寄ると、なぜかやや腰を落とし、一瞬だけ俺を見た。
「気は変わらないわね? 最後のチャンスよ」
「変わらないっ。その代わりサクラは俺達と――」
言いかけた途端、サクラの右手が霞んだ。
魔法付与の刀が一閃し、薄闇に綺麗な三日月形の軌跡を見せ――次の瞬間、儚く光の筋が消えてしまう。やや遅れ、レージを縛っていた縄が簡単に全部切れて、下に落ちた。
サクラは、既に刀を鮮やかな動きで鞘に戻すところだった。
「わあっ」
今頃になってレージ本人が飛び上がった。
「危ないだろっ。俺に刃が当たったら、責任取れんのかサクラっ」
苦情の割に、レージの身体には傷一つついていない。着ていたシャツも全然無事だ。さすがだな……いや、感心してる場合じゃないけど。




