困難な条件
「ちょい待った!」
俺はいきなりサクラの機先を制した。
「なによっ」
「いや、条件提示の前に、俺が事前に言っておかないと」
むっとしたサクラに言い訳し、俺はマヤ様をこっそり手招きして、皆から少し離れた。いや、少しじゃまずいな。サクラは地獄耳だ。余分に距離を取っておこう。
「どうかしたのか?」
木立の陰で、マヤ様も声を潜めて訊く。
そこで俺は低頭して頼んだ。
「提案ですが……条件提示されたら、俺に任せてくれませんか」
「マヤはいつも、ナオヤに任せているではないか」
マヤ様が早速、不機嫌そうに言い返す。
「言っておくが、マヤが誰かを信頼して任せるなどということは、今までにまずなかったのだぞ。そこを考えよ!」
おまえ、ちゃんとわかってるか! と言わんばかりに睨む。
絵に描いたような膨れっ面である。
この人は時として、子供みたいなところを見せるので、困るのだな。いや、俺はそこも可愛いと思ってるんだけど。
「いやいや、わかってますよ。でも、今回はあのサクラが相手なので、ちょっとでも不服そうなところを見せたら、たちまちへそを曲げそうな気がするんですよ。自分でわがままだって自称してますし」
「マヤだってわがままだ!」
す、すぐさま鼻息も荒く言われた。
だから、全然自慢にならんっつーのに。
「ナオヤはどっちの味方なのかっ」
「マヤ様の味方ですがなっ」
俺はいつの間にかマヤ様の手を握っていた。
「だからここは一つ、横槍を入れずに、ずばっと俺に任せてください。最後はマヤ様のためになるようにいつも考えてますから」
「むう」
必死こいて訴えたせいか、ようやくマヤ様が軟化してくれた。というより、少々呆れ顔で俺を見た。
「……案ずるな、ナオヤ」
「わっ」
素早く頬にキスされて、飛び上がりそうになった。
なんだよ、いきなりっ。
「マヤとて、ナオヤの顔を潰すようなことをするものか」
頬に手を当ててきて、柔らかく言われる……珍しくも。
「妙なことを気にせず、存分に交渉せよ」
「あ、ありがとうございます……」
いや、キスのせいでちょっと魂抜けたな。
もう何度か経験してるのに、唇がすっげー柔らかくて、思わず意識してしまう。おまけに、俺が慌てるのを見て、ものすごく楽しそうに微笑するのだな、この方は。
こっちが焦るのを見ると、嬉しいらしい。
「お、おほん……では、戻りましょう」
いささかギクシャクした歩き方で、俺はサクラの前に戻った。
全員のじっとりした視線を浴びて。
腰に片手を当てて俺達をしんねりと見ていたサクラが、いの一番に言った。
「……もしかしなくても、お尻に敷かれてるの?」
くっ。なんか、胸にずしっと来そうな軽蔑の目だな、畜生っ。
「し、尻も胸も関係ないって! 俺は元々、マヤ様の臣下だろっ。第一、何言われても従うわけじゃないわいっ」
あ、いかん……思わず熱くなったな。
どうも俺は美人の挑発に弱いので、気をつけんと。
「んなことより、条件はなんだ」
身構えて問うと、今度こそサクラはあっさり言ってくれた。
「仲間になってあげるから、この場でレージを解放しなさい」
途端に、仲間から黄色い叫び声が上がった。
「馬鹿を言うでない!」
「おい、サクラあっ」
「ええっ」
「そんなの無理ですっ」
おぉ……レージ本人とレイバーグとローズの声が重なったのはともかく、一番先に一番でっかい声で、マヤ様が叫んだという。
――さっきの約束が五秒で反故かよっ。




