砦攻略(の予定)――その10
――その10
「まだ領内も出てないってのに、それってどういうことだ?」
ヨルンが首を傾げて尋ねた。
「こう言っちゃなんだが、例えば総指揮官のナオヤや、奴隷を指揮するギリアムやダヤンが狙われるならわかるぜ。でも、殺されたこいつって元々ルクレシオン帝国の奴なんだろ? どういうつもりで、誰が狙ったんだ。こいつ殺して、誰か得でもするのか?」
エルザやギリアムも同感と見て、じっと俺の顔を見つめている。
特に、実際に命拾いしたエルザは、顔色が悪い……つか、なんでみんな俺に訊くかね。俺だって今は推測しか言えないのに。
「まあ……俺も別に自信あるわけじゃないけど、おそらく森でエルザを殺そうとしたのも、ルクレシオン帝国の奴だと思う」
「それでは、ルクレシオン帝国の兵士が、同じ同胞を暗殺しようとしたわけですか……しかも彼とエルザの両名を!」
ギリアムはわけがわからないといった調子で首を振った。
駆けつけたダヤンもやはり訝しそうに考え込んでいる。
気持ちはわかるが……少し前に殺されたギルとエルザの会話を盗み聞きしていた俺には、見当くらいはつく気がする。
黙っていようかと思ったが、この際、彼らには話しておくことにした。
「多分、俺には理由もわかると思う」
ボンゴや他の奴隷達から十分離れていることを確認し、俺はエルザとギルがこっそり会話してたのを盗み聞きした経緯を説明した。
「き、聞いてたんだ?」
当然ながら、エルザがバツが悪そうに言う。
「ああ……二人でヒソヒソやってるのを見て、こっそり近付いたのさ。悪いとは思うけど、俺はみんなの命を預かる身なんで勘弁してくれ。どのみち、肝心なことは何も聞こえなかったし」
ギリアムのせいでな、というのは喉の奥に呑み込み、結論のみを語った。
「それで、ここからが俺の推測だけど――おそらく、殺された間諜のギルは、本当に重要な秘密を持ってたんだな。しかも、自分が自覚していた以上に重要な情報を。だからこそ、斥候のギルが戻らないのを訝しんだ敵さんが彼を捜し回り、遅ればせながら俺達に捕まっているのを知った。……ついでに、遠くから観察するうちに、同じように捕虜になってるルクレシオン帝国の元間諜がいることもわかった。しかも、二人がコソコソ話してるのも見てしまった」
多分、そういうことだったのだと思う。
ギルの持つ情報は、帝国側からすると、何としても隠しておきたい情報だった。だから、探し回った挙げ句に彼が俺達に捕まっているのを知って焦った……しかも、そのギルは捕虜仲間のエルザともひそひそ会話していたのだ。
「……だからこそ、秘密を守るためにギルを殺し、そして問題の秘密をギルから聞いたかもしれないエルザも殺そうとしたんだと思う」
「な、なんでぇ。殺さなくても……二人とも逃がしてくれればいいじゃない?」
泣きそうな顔でエルザが言う。
気持ちは非常によくわかる。なにせ、仕えているはずの国が、自分を殺そうとしたのだ。
しかし、気は進まないものの、俺は正直に答えた。ここは何としてもエルザに理解してもらう必要があるのだ。
「自分を含めて三人も逃走するとなると、俺達に追跡されてまた誰かが捕まる危険性があるだろ? そうすると、結局は誰かから秘密が漏れるかもしれない」
顔をしかめたギリアムが、後を引き取った。
「だから、殺す方が簡単だと見た――ですか。不義理な話ですね」
曲がったことが嫌いそうな、彼らしい物言いである。
「今話したのは全部俺の推測だけど、少なくともこの事態の説明にはなってる。それに昼間放った斥候が、三方向に分かれた足跡も見ているしな……何の意味があるのかはわからないけど、敵が何らかの行動を起こしかけてるのは確かなんだ。そこで、ここからがエルザへのお願いなんだけど」
俺は、悲観に暮れたエルザに向かい、心を鬼にして頼んだ。
「……さっき、ギルからどんな話を聞いたんだ? おそらくはその話こそが、エルザが狙われた原因なんだ」
ギリアム達も、全員がエルザに注目する。
……まあ、ここまで聞けば誰だって気になるよな。俺だって、エルザ達の思わせぶりな会話を盗み聞きしてなかったら、こんな推測なんか思いつきもしなかっただろうけど。
「あ……あたしは……でも、帝国に仕えている身だし」
エルザがいやいやをするように首を振る。
「仕えてる身って、雇い主の帝国は、おめーをあっさり殺そうとしたんだぜ? しかも、容赦なくトイレ中を狙った。義理立てする意味あるのか?」
ヨルンが呆れたように言えば、真面目なギリアムも強く述べた。
「信義と忠誠は、一方的なものではない。当然、主君の側も信義は問われるし、臣下を保護する義務がある。帝国は、その信義を守らなかったのだぞ」
いやぁ……この人、たまに良いこと言うなぁ。
さすがは魔族の純血! 金髪をオールバックにした髪型と、彫刻みたいな顔は悪役そのものだけど、なかなかいい人じゃないか。
もちろん、俺も必死で頼んだ。
「昼間の謎の足跡群は、きっちり三方向に分かれていたけど、北側に向かう足跡だけはなかった。それってもしかして、北こそが侵入した敵の本命ってことじゃないのか? わざと散った足跡は全て偽装で、後で全員が北へ向かう……違うか?」
ここで俺は、エルザの顔をじっと眺めた。
「今、北の国境付近には、マヤ様がいるはずなんだ」




