呼び捨てがデフォ
「……とにかく、そっちの接近には途中から勘付いてたわよ、こっちも」
迷惑そうにサクラが俺を見る。
「支城のそばに間諜がうろうろしてたものね」
く……この調子だと、間諜の一人が捕まってあっさり吐いたらしいな。
まあしょうがないけど、油断だった。
「あの」
ここで金髪のローズが、ひそひそと尋ねてきた。
「この方、私より年下に見えますけど、本当にかつての勇者なのですか?」
「本当だって! 言っておくけど、見た目で判断するとひどい目に遭うぞ。こいつは本当にめちゃくちゃ強いんだ」
「……戦士将みたいな方なんですね」
ひどく感心したように言われたが、それは何を指して言ってんだ? 見た目と実力が一致しないってトコかっ。
「全部聞こえてるわよ」
サクラに不機嫌そうに指摘され、俺は慌てて咳払いした。
「ごめん。ちょっとおまえのことを訊かれたんで」
「わたしは本当に、遙かなる前世においては、邪神を倒すブレイブハートとして戦ったのよ。まあ、勇者って呼びたいなら、それでもいいけど」
ローズにぶっきらぼうに言い捨て、サクラは続けた。
「身構えてこっちから来てみれば、なによ? ただ話をするために、わたしに会いに来たの? あんた達がわたしを探してるのって、わたしはもちろんのこと、クレアールにいるユメ達も、事前に察知してたわよ」
「マジか!」
「本当ですとも。お陰でわたしは、あの子やらレイモンに疑われる羽目になってるのよ。迷惑なことだけど――」
言いかけ、そこできっとまなじりを吊り上げる。
そのきっつい目つきといったら、顔をしかめてじろじろサクラを眺めていたマヤ様が、思わず身構えたほどだ。
「でもこれはいい転機かもしれない。こう見えてわたしはわがままですからね」
おぉ、このツンケンねーちゃん、自慢にもならんことを、呆れかえるほど堂々と!
「こっちがせっかく過去を忘れ、好意で手伝ってあげてたのに、大した証拠もなしに疑われるのは、心外だわっ。肩身の狭い思いをしてまで、手伝ってあげる義理もないしね。正直、わたしはユメ達に愛想を尽かしかけている」
「おいおい、サクラっ。どうせそれはあの傲慢イケメンのレイモンが」
なんてレージが捲し立てそうになったが、俺は大急ぎで割り込んだ。
これはひょっとしてチャンスかもしれんやん!?
「なら、俺達の話を聞いて協力してくれるってこと――」
みなまで聞かずに、サクラがずばっと割り込んだ。
「いきなり、そんなわけないでしょ、馬鹿!」
……きっつい目つきで睨み付けられてしまった。
「しかし、ナオヤから聞いたところでは、君は人間達に恨みがあるそうじゃないか」
レイバーグが進み出て、落ち着いた声で話しかける。
新旧の勇者が向かい合って立ってるのって、なんかすげーな。
「守っていた人間達が、逆に君を裏切ったとか。その気持ちは今のボクにもよくわかる。つい最近、似たような経験をしたからね」
は、話が怪しい方向に飛んだが、俺は差し出口はせずに、黙ってレイバーグに任せた。実力者同士、通じ合えるかもだしな。
「今も、ユメ達は君に疑いの目を向けているというなら、過去の二の舞にならないうちに、考えた方がいい。これはボクの経験から、本気で言ってるんだ」
サクラはレイバーグをしばらく見つめた後、マヤ様達に素早く視線を走らせ、最後に俺の顔を穴があくほど見つめた。
しばらくして、根負けしたように言う。
「それで、話ってなに?」
「よくぞ聞いてくれたっ」
俺は勢い込んで、しかしなるべく顔には期待感を出さないように捲し立てた。
「おまえの腕を見込んで仲間にしたいっていうのもあるけど、実は俺達、ユメを倒すのなら、おまえに協力を仰ぐのが一番だと思ったわけさ! なんたって、かつての勇者だからなっ。餅は餅屋っていうか、経験済みのおまえに協力頼むのって、ごく自然なことだろ」
サクラはまた黙り込んだが、今度の沈黙は長くなかった。
密かに恐れていたように怒り出すことはなかったが、苦笑じみた表情で俺を見返した。
「あぁ……なるほどねぇ」
胸の下で腕を組み、俺にずばっと訊いた。
「それを思いついたのは、ナオヤ?」
「お、おぉ……」
いきなり名前を呼び捨てっすかー。




