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出発


「あたし、大人の女なのに入ってないし……入ってないしっ」


 なぜか今回、エルザまで連呼して文句つけるしな。

 自分で言うようにいい大人のくせして、膨れっ面である。


「頼りにならないと思ってるわけ!?」

「なんでそうなるかなー!」


 これだから美人はようっ、といういつもの愚痴が出そうになり、俺は辛うじて我慢した。

「俺の立場で考えればわかるだろ? この砦にも、ちゃんと指揮する人間を残さないと、まずいじゃないか」

 なだめるように両手を広げた。

 基本方針として、駐留軍として大半の軍勢をここに留め置き、あくまでも少数精鋭でサクラの支城に潜入することにしているわけだ。

 ということは、ここで何かあった場合、指揮を執る者がいる。




「だから、しっかり者のギリアムもヨルンも、残留組として残すわけさ」

 多少のヨイショも含め、俺は熱弁した。

「そりゃ他にも指揮官クラスはいるけど、俺としちゃ、気心の知れた奴に後を任せたいじゃないか。マヤ様の補佐も必要だし」


「なにを見当違いのことを言うのか。マヤも同行するに決まっておろう!」


 当のマヤ様がすかさず口を挟んだ。

 うわ、やはりそう来るか。

 俺は頭を抱えそうになって息を吐く。まあ……どうせそう言うと思ってたけどね。


「なにか同行に不満でもあるのか……うん?」


 不気味に声が低くなったりして。

「いえ、マヤ様の同行は心強いし嬉しいんですけどね」

 本音もまじえて肩をすくめておく。

「護衛も兼ねた俺としては、いろいろ心配なわけで」

「……それはお互い様ではないか」

 少しだけマヤ様の目つきが優しくなった。


「マヤはナオヤの命を心配するし、ナオヤもマヤを心配する。それでいいではないか」

「ええと」

 えらく素直に言われて、逆に驚いたな。

 部屋が静まり返ったし。

 だいたい今のお言葉って、他のメンツについては全然言及してないわけで、なんか不満が膨れ上がりそうで、それも恐い。




 なんで俺が、マヤ様の立場まで心配しなきゃいけないんだって思うが……本人が全然気にしないんだから、しょうがない。せめて側近の俺くらいは気にしないと。


「と、とにかく……そんなわけで、夜になったらここを出ますから。だから、該当者はよろしく!」


「いえ、お待ちをっ。せめて私は」

「おいおい、ナオヤ。俺を忘れてるだろ!」


 速攻でギリアムとヨルンが声を上げたが、俺は「用事あるから!」と言い放ち、とっとと部屋を出た。

 まさか、追いかけても来ないだろう……。






 ……時間が来るまで、病室代わりの部屋に寝かせてあるミュウを見ていたが、相変わらず、全然目覚める気配がない。

 長いまつげを伏せたまま、身動きもせずに横たわったままだ。


 人形みたいになってしまって、お陰で俺は枕元で散々泣き言を洩らしてしまったじゃないか。やはり、ミュウの存在は俺にとって大きいのだなあ。

 ただ、俺は彼女が死んだとは微塵も思っていないので、やむなく伝言を書いた紙を枕元に残しておいた。

 これまでの経緯と、俺がどこに向かうかを記してある。


 あと、さっきの軍議では話に出なかったが、同じく既に残留が決まっているボンゴに、くれぐれも後のことを頼んでおいた。

 ギリアム達にも別に頼んでおくけど、奴隷兵士に睨みを利かせるなら、なんといってもこの頼もしい獣人だ。元ルームメイトでもあることだしな!





 そうこうするうちに夜も更け、俺達は砦の門に集まった。


 ……それはいいが、両手を前で縛られたレージが、俺を見た途端に、険悪な顔で話しかけてきた。


「なんで俺も一緒だよ、えっ!?」


「いやぁ……俺も申し訳ないと思うんだけど」

 俺はモゴモゴと言い訳する。


「ここに残しておくと、後から俺らみたいなのが潜入してくるかもしれないだろ? その時に奪還されたらたまらんからさ。貴重な切り札だし」

「くそっ、人を人質扱いしやがってえっ」


 なにもできない自分が情けないのか、レージは歯軋りした。

「きっと途中で、ユメの配下が奪いにくるからなっ」

 戦いの時にユメを脅したせいか、機嫌も悪い……俺も気が咎めるので、言い返す気にもならなかった。 

 ……けど、マヤ様がすぐに言い返したな。


「黙れ、雑魚司令!」


「うおっ」

 身も蓋もなくマヤ様が決めつけた。きっつい言い方は、ふて腐れていたレージが、さすがに唖然とするほどだ。


「ざ、雑魚指令て……」

 ショックを受けた顔で仰け反る……俺は慣れてるけど、まあこんな超美人に罵倒されたら、いい気分しないよな。そこは同情する。


「さあ、参ろうぞ、ナオヤ。やはり、外で作戦行動する方が退屈せずに済む!」


 一人だけ張り切っているマヤ様が、レージを無視して明るく言ってくれた。


 正直……むちゃくちゃ不安だ。


 そう思ってるのは俺だけじゃない証拠に、他のみんなもそっと視線を交わしていた。


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