砦攻略(の予定)――その9
――その9
まさに、ギリギリで間に合った。
黒い影のそいつは、エルザに向かって長剣を振り下ろすところだったのだ!
「させるか!」
闇の中で銀色の剣と俺の赤い刀身を持つ刀が真っ向から激突し、歪んだ音を立てた。
敵は殺気を迸らせており、さすがの俺も手加減する余裕なんぞなかった。というか、そんなこと考えていたら、こっちが殺られていたはずだ。
二、三合ほど斬り結び、俺は隙を見つけた。
刀で力任せに相手の剣をかち上げた瞬間――俺は、すかさず前進して、返す刀でがら空きの胴を存分に薙いでいた。黒い影にしか見えない敵は大きく仰け反り、その場に崩れ落ちた。
「大丈夫か、エルザ!」
「こっち見ちゃ、だめっ」
振り向いた途端、喚かれた。
もう遅い……一瞬振り向いた時、ほぼ全裸で(あの下着、脱ぐとそうなるのな)へたり込んでいるエルザの裸体を見ちまった。
彼女、襲われたことで呆然としたのか、まだ下着を引っ張り上げてなかったのな。
もうホント、色白肌以外のナニまで見えてしまって、俺は一瞬で頬が熱くなったね!
この人、割と薄い方なのなぁ、みたいな。
「わ、悪いっ」
慌ててまた前を向き、やむなく自分が倒した敵を点検することにした。
月明かりだけでは厳しいが……目の方も暗闇に慣れてきたので、一応、どんな奴かはわかった。地味な貫頭衣着てるが、エルザや俺と同じ黒髪に黒瞳らしい。それって、敵国の庶民に多い外見でもあるけどな。
嫌々、ポケットも探ったが、見事なまでに何も持ってない。
……そのくせ、武装だけはしてると。
こりゃ、典型的な帝国側の斥候とか間諜の格好である。実際、昼間捕まえたギルも、似たような格好だった。
「な、なんであたし、襲われたの?」
ようやく身を整えたのか、エルザが背後から近付く。
俺はわざと素早く立ち上がり、彼女を押し戻した。
「見ない方がいい。死体なんて、見て気持ちいいもんじゃないだろ?」
「あ……うん……」
意外そうに頷いた後、素直に戻ってくれた。
途中、小さい声で呟いた。
「助けてくれてありがと」
「いいさ。二人とも無事でよかった」
「でも、本当にどうして――」
エルザが言いかけた途端、遠くから複数の怒声が聞こえた……これは、陣地の方だ!
俺達は薄闇の中で顔を見合わせた。
「なにかあったらしい! 急いで戻ろうっ」
「う、うん」
俺達は頷き合い、小走りにその場から離れた。
陣地へ戻ると、既に軍勢の大部分が叩き起こされていて、篝火も盛んに焚かれていた。
お陰で、真昼――とはいわないが、かなり明るくなっている。
仁王立ちで大勢の兵士に指示しているギリアムを見つけ、俺は早速尋ねた。
「どうかした!?」
「ナオヤ様っ」
ギリアムは、俺を見てあからさまにほっとした顔をした。
「今、呼び戻すために人をやろうと思っていたところです……ご無事でよかった」
「どういう意味?」
「例の間諜が、殺されています!」
「う、うそっ」
俺ではなく、エルザが両手を口元にやって驚いていた。
もちろん俺は、早速、騒ぎの中心へ歩み寄る。声をかけて皆を下がらせ、地面を見ると……縛られたままのギル(あの間諜な)が、横倒しになって死んでいた。喉を裂かれて血塗れになっている。
……さっき、エルザと密談してたばかりなのに。
見張りはどうしたんだっと言いたいところだが、その見張りも横に転がっている。こいつも同じく、首を裂かれてコト切れていた。場所が陣地の隅っこだったこともあり、誰も気付かなかったらしい。
考えるまでもなく、俺には犯人がわかった。
「――さっき、エルザを襲ってきたあいつか!」
「誰なんだ!?」
「やはりそちらにもっ」
駆け寄ってきたヨルンとギリアムの声が重なる。
「ああ……トイレに行ってた俺達も、さっき襲われたんだ。ていうか、実際に殺されそうになったのは、エルザだけど」
俺は上の空で答えた。
「おそらく、先にこっちで暗殺してから、森へ向かった俺達を追ったんじゃないかな」




