眠れるミュウ
邪神のユメは飛び去ってくれたが、あいにく俺にのんびりしている暇などない。
即、ミュウの元へと駆け付けた。周囲は敵ばかりだし、まさかレージも逃げないだろう。
あと、エルザやギリアムもぶっ倒れているのはわかっているが、ネージュがミュウにかかり切りってことは、それだけ彼女のダメージがでかいってことだからな。
見ていた俺の目から言っても、他の二人は命に別状まではないはずだ。
俺が怒濤の勢いで駆け寄ると、倒れたミュウの上に手をかざしていたネージュが、汗まみれの顔で振り返った。
「い、一応……完治したはず……だけど」
「いや、だけどじゃ困るよっ」
俺は嫌な予感がどっと心中に噴き出し、慌ててミュウの脇にしゃがむ。
しかし……完璧な美貌を誇るミュウは、静かに目を閉じたまま、ピクリとも動かなかった。まるで眠れる美女だ……いや、美少女か。
「ていうか、呼吸もしてないんだけどっ」
遅ればせながらそこに気付き、俺の焦りは最高潮に達してしまう。
「そ、そんなこと言われたって、あたしにもわからないわ」
ネージュは困ったように言った。
「そもそもこの子って人間じゃないわけでしょう? だから、前にも言ったと思うけど、あたしのやったことって、いわば機械の状態復元的な魔法を試みただけで……その点じゃ、ちゃんと元通りになっているはずなのよ」
「だけどっ」
目を開けないじゃないか! と喚きかけ、俺は自ら自制した。
落ち着け、落ち着け俺っ。ミュウは高度に生体化された人工ヒューマノイドだけど、待機状態になった時には、呼吸も心臓の動きもない。いや、現実にはあるんだが、ほぼ一分に一回とかの動きだと前に聞いた気がする。
そこを思いだし、俺はミュウの胸にがばっと身を伏せる。
もちろん、鼓動を確かめるためだ……けど。
しばらく試みて、首を振った。
「わ、わからないな……もし一分に一回ほどの鼓動なら、こんな風に胸に手を当ててもわからないんじゃ」
「心臓の話か? では胸の鼓動ではなく、脈を診ればどうか?」
黙って聞いていたマヤ様が言う。
「それより、サーチアイの方が早くない?」
遅れてきたレイバーグが口を挟む。
途端に、ネージュが手を叩いた。
「それだわっ。そうだ、サーチアイがあった!」
ネージュが大声を出した。
「思い出すの遅れてごめんなさい」
俺とマヤ様が注目したせいか、先に説明してくれた。
「本来は敵を探るための魔法で、およそ半径十メートルくらいの人やモンスターは、軒並みこれでわかるの……生きていれば、確実にね。だから、この探知で引っかかったら、ミュウは生きてるってこと!」
「おお、すぐに――」
頼むと言うまでもなく、ネージュは既にぶつぶつと詠唱を始め、その後で軽く手を振った。しばらくそのまま目を閉じて動かなかったが、固唾を飲んで俺達が見守る中、ようやく目を開けて微笑んだ。
「……大丈夫、彼女は眠ってるだけよ。あたし達にはわからない理由でね」
「そ、そうかぁ……ああ、よかった!」
まあ、安心しきったわけじゃないけど、ネージュがそう言うなら大丈夫だろう。
一応、あのひどい怪我は再生されてるし。
ほっとして改めて周囲を見渡すと、ちょうど目覚めたエルザと……それに、妹のローズの肩を借りたギリアムなどが近付いてくるところだった。
「あたしの心配もしてよっ。言っておきますけど、気絶している間、冥界の川が見えたんですからねっ」
エルザが絵に描いたような膨れっ面でまず文句を言う。
しかし……抗議できるだけ、彼女はまだ元気が残っていると言える。
ギリアムなんか、粘土みたいな顔色だしな。
「大丈夫か、ギリアム」
「も、もちろんです」
妹の肩をふりほどこうとしているが、ローズがそれを許さなかった。なんだかんだいって、兄が心配らしい。断固として身体を支えている。まあ、それで正解だろう。
「……怪我人は、休息するがよい」
立ち上がったマヤ様が、ぐるっと皆を見渡した。
「ただ、ナオヤには話がある」
「うっ」
いや、マジでぎくっとした。
てっきり、抜け駆けの件をどやされるのかと思ったからだが、マヤ様は自ら首を振った。
「何を考えているかはわかるが、今はそれどころではあるまい?」
「……はい」
まあ……そりゃそうだな、うん。




