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演技駄目駄目

「遅れてごめんなさい、ナオヤ君!」

「ネージュ、よく来てくれたっ」


 俺はせかせかとがんじがらめに縛ったレージの縄尻を受け取ると、倒れたエルザの方に顎をしゃくった。


「とりあえず、こいつは俺が引き受けた。エルザと――あと、向こうで倒れてるギリアムを見てやってくれ」


「わ、わかったわ」

 さすがにざっと現状を見て、これが危機的な状況であることがわかったらしい、ネージュは一言の反論もせずに、まずはエルザの方へ走っていった。

 そして俺は、またしてもマヤ様と斬り合いを演じ始めたユメに、大声で叫んでやった。





「おいこるらぁあああああ、暴れまくるのはいいけど、こいつがどうなってもいいのかあああっ」


 おお、さすがにユメの動きが止まったぞ。

 それでもしつこくマヤ様が斬りかかろうとしたが、そのまま最初みたいにすうっと宙に浮いてしまう。

 まさに空を渡るように、俺達の近くへ来ようとした。


「そこまでだっ」


 俺は抜き身の刀をレージの首に突きつけ、堂々たる恫喝を加えた。

「忘れんなよ、俺は極悪な魔族軍の戦士将だからなあっ。こいつの首をすこーんと落とすくらい、朝飯前にやってやるぜ!」

「ほ、本気か?」

 むしろ腕の中のレージが腰の引けた声で訊いたが、「おおさ!」と力強く頷く。いや、ぜひとも本気にしてほしい。

 本当はやりたくないから。


 ユメは厳しい顔で何事か考えている様子だった。

 刀をレージの首につきつけている俺を見て、そして俺達の有様を見て、さらに周囲を囲んで唖然と眺めている魔族軍を見る。


 火炎魔法の炎もいつの間にか消えていて、全然けろっとしてやがる。

 そのうち、憎たらしい声で言ってくれた。


「……ふん、そんな人間、ユメはどうなっても、全然気にしないからっ。好きにすればいいわ」


 あぁ……今ので、レージを人質に使うのは効果があるとわかった。

 俺もたいがい大根だけど、この子も演技が苦手らしい。

「は、はははっ」

 レージが今更のように引きつった笑い声を響かせた。


「言っちゃなんだけど、彼女の言う通りなんだな! 俺はユメを大切に思ってるけど、向こうはこっちのことなんか、肉の駒くらいにしか思ってないわけで」


 いやいや、レージさん。

 あんたもたいがい、大根だから! もう演技の才能、皆無だからっ。

 俺を上回るダメダメ演技に、思わず笑っちまったが……決定的なことに、当のユメがいきなり涙目でレージに声を張り上げた。





「ええっ!? パパっ、ユメのことそんな風に思ってたのーーっ」

「ば、馬鹿っ。そうじゃなくて!」


 俺の腕の中でしきりにレージが目で合図する。

 今更遅いわっ。つか、こんな時に必ず出しゃばるマヤ様が、なぜかさっきから倒れたミュウのそばにしゃがみ込み、動かない。


 レイバーグと一緒に、えらい深刻な顔で傷口を見てて、むちゃくちゃ心配なんだよっ。早く消えてくれっ。ギリアム達のそばにいるネージュも同じ思いなのか、治癒の最中なのに、はらはらした目つきで俺達を見比べている。


「はいはい、とっとと結論出してくれよな」


 たまらず、俺は怒鳴った。

 握った刀の柄に、ぐっと力を入れて、わざとらしくレージの喉にぐいぐい押しつける……あ、ちょっと切れた。


 それを見て、ついにユメが大きく息を吸い込み、ぎろっと俺を睨んだ。




「パパを助けたら……おまえだけは絶対に殺してやるから!」


「けっ、こう見えて俺は、ついこの前まで日常的に、死ねだのおまえらは消耗品だの、ガンガン脅されて毎日戦ってたんだよ! 相手は味方の上官だったけどなっ」

 自慢にならないことを白状し、逆に睨み返してやった。


「今更、そのくらいでびびるかっ。いいから、とっとと退け!」


「くっ」

 悔しそうに唇を噛み、ようやくユメはさらに上空へ舞い上がり、いずこともなく姿を消した。

 これほどほっとしたことは、なかったかもしれない。


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