邪神様の降臨
確信に近いような予感に、階段を駆け下りる俺は、早くも震えていた。
武者震いだと言いたいところだが……正直、ちょっとびびってるのも否定できない。
一階まで駆け下り、破壊されたままの砦のドアから外に駆け出した俺は、たちまちその場で急停止してしまった。
まず、今の大揺れの原因がわかった。
元通り、外に整列しているホムンクルス達のすぐそばに、でっかいクレーターができて、底の方から煙が上がっている。
まさに、今いた砦の主塔に近い、ギリギリの位置だった。さっきの揺れは、この大穴が原因らしい。こんなでっかい穴、攻撃魔法使ってもなかなか無理だと思うけど。
そしてトドメに……なんと砦の主塔よりも高い空中に、黒い影が浮いていた。
元魔王陛下のナダル様のように漆黒の翼を広げ、漆黒のドレスを纏った少女である。
マヤ様と似て、切れ長の凄みのある瞳だが、こちらは片眼が隠れそうな長い黒髪をしていて、ややマヤ様よりは年下に見える。
ドレスこそ、舞踏会にでも出そうなふんわりと広がったスカートなのに、黒髪をうねうねとなびかせて眦を吊り上げる様は、ただ事ではない。
正直、物凄い威圧感があった。
そう感じるどころか、実際に黒々としたオーラが身体の周囲に立ち籠めていて、俺、鳥肌立ったよ、鳥肌っ。
「――パパはどこっ」
俺を見下ろす少女が、いきなりでっかい声を張り上げる。
「ぱ、ぱぱ?」
「そうよっ。知らないようなふりをしないでっ。砦がせんりょーされてるなら、パパのことも知ってるはずだもんっ」
いや、舌っ足らずの声で、だもんって言われても。
しかし……そういや、レージに懐いている邪神は、レージのことをパパって呼んでるんだっけか。
「なんてこと!?」
俺は戦慄して口走った。
するとなに、このマヤ様に対抗するようなゴシック少女が、例の邪神かよっ。
え、生後数ヶ月で、生まれて間もないはずの、邪神の転生体? マジで!?
「すると……あんたが、ユメ?」
「知ってるじゃない、やっぱり!」
言うなり、女の子――ユメがすうっと下りてきた。
「正直に言わないと、切りきざんじゃうからっ」
小学生高学年っぽい見かけのくせに、やたらとドスの利いた声で言うと、ユメは両手を左右にさっと広げた。
するとなんと……その左右の手に、真っ黒な刃を持つ長剣が二振り握られたじゃないか。
しかもこれ、俺のと同じで魔剣の類いか? 峰部分が星が瞬くみたいにきらきら光ってるけど。
「いや、あの――」
言い訳しかけたその時、よいタイミングでネージュが、壊れたドアのとこまで駆け下りてきてくれた。
おお、どうやらマヤ様は他のみんなで止めてくれたらしいなっ。ナイス!
少しほっとした俺は、ネージュにゼスチャーで『人質を連れてきてくれっ』と合図した。
自分の身体の周りをぐるぐる縛られた感じを手で表現したんだが、ネージュは呆れた目つきで、「……俺は壊れちまった? そう言いたいの?」なんて吐かしやがった。
そりゃ、頭の横で指をくるくる回した時だろっ。
「違うわっ! 例のあいつ、あいつをっ」
「あ、ああ――」
これでようやく通じ、「わかった!」と言ってネージュがまた駆け去っていく。最初からこう言えばよかった!
「ちょっと、ユメが話してるのに、なにっ」
「え――てマジっ!?」
なんか風切り音がしたなと思ったら、もうユメが俺の眼前にいて、漆黒の剣を振り下ろそうとしている!
なにこの子、サクラとかより速いんだけどっ!?




