砦攻略(の予定)――その8
「そういや、忘れてたなぁ。じゃあボンゴ、先にそこらの茂みにエルザを――」
「待ってよ! あたし、女なんですけどっ」
焦った顔でエルザが割り込む。
……そりゃ、突き出たおっぱい見りゃわかる。
「つっても、この陣地に簡易トイレなんかないし、ロープほどいて『やってきていいよ』って言えるわけもないし、妥協してもらうしかないんだけど」
ちゃんと相手に翻訳されて伝わってるかどうか謎だが、とにかく俺は事情を説明してやる。
一応通じてたと見え、エルザは絶望的な顔をした。
「くっ――せ、せめて女性の二等戦士とかいないの!?」
「あいにくだな」
黙って聞いていたギリアムが生真面目に、しかもきっぱり述べた。
「この部隊にいる女性は、連れてきた奴隷の魔法使いだけだし、もちろん彼女達におまえの面倒を見させるわけにはいかない。諦めてボンゴに連れていってもらうことだ。獣人は人間の女に興味など持たぬし、心配はいらないはずだぞ」
そうそう、と気安く頷く俺に、エルザはヤケクソのように怒鳴った。
「じゃあ、せめて貴方にしてよ! このでっかい獣の人なんて怖いじゃないっ」
あからさまに言われ、ボンゴが(わかりにくいが)むっとした顔をした。
「おでは、ツルツルした人間女に興味なんぞねえっ」
「とにかく嫌よ!!」
「ま、まあまあ」
俺はうんざりして睨み合う双方を止めた。
「わかったわかった! どうせ俺も行くつもりだったし、なら付き合うよ」
「馬鹿な!」
今まで黙ってた新たな捕虜のギルが大声を上げた。
「一番危ないじゃないかっ」
「……あんたは黙っててくれるか」
さすがの俺もむっとして決めつけた。
というわけで俺はエルザを先に立たせ、拘束したロープを手に、付近の森まで歩いていった。
俺が貸したマントはトイレの為にあらかじめ脱いでいるので、エルザは例の競泳水着みたいなボディスーツちっくな下着姿である。
お陰で素晴らしく形のいいお尻が堪能できてドキドキしたが、迂闊に見つめているといつ振り返って「変態っ」とか罵られそうな気がして、あまり注視もできない。
……と思ったらいきなり話しかけられた。
「あたしを助けるために連れてきたって話、本当なの?」
珍しく、怒った声ではなかった。
つか、ホントに理解してなかったとは。
「まぁね。他に処刑を回避する方法も無さそうだったから。お陰で、この無茶な軍勢に同行させられてるのは同情するけど」
「……殺されるよりはマシよ」
それを最後に会話が途切れ、森の中に入るまで二人とも黙って歩いた。
一際大きい、杉の老木のところまで歩くと、俺はあっさり宣言する。
「ここにしとこう。――あと、命令しとかないとな。え~……決して逃げないこと!」
エルザに言い聞かせるためではない。
彼女の首には、銀色をした特大のリングが嵌まっていて、俺の命令に反応するようになっているのだ。つまり、今の命令に彼女が違反して逃げようとすると、途端にリングがキュキュッと締まるわけである。奴隷用のマジックアイテムで「拘束リング」というやつだが、実際に命令を下すのは、俺も初めてだった。
命令を出した後、最後に後ろ手に縛ったロープを解いてやる。
「じゃあ、どうぞ。俺は俺でこっちでするから」
「……しょうがないからするけど、覗いたり音聞いたりしないでねっ」
大人っぽいボブカットの髪を手で払い、上目遣いに睨む。
「わかったわかった」
――あんた、薄い本の読み過ぎじゃないのか! と文句を言いそうになり、辛うじて我慢した。
まぁ、正直に言うと、誘惑くらいは覚えるんだけど。
二人で老木のあっちとこっちに分かれ、用を足した。
言っちゃ悪いが、この静まり返った暗い森の中では、かなり音が響く。従ってエルザがゴソゴソと衣服を脱ぐ音も聞こえたし、ジョウロで水まくような音もちゃんと聞こえた。こ、これはドキドキするな、確かに!
否応なく耳を澄ませてしまったが……お陰で、他の物音も聞こえた。
ごくごく微かな音だったが、間違いない。
誰かが、こっちに接近しつつある。しかも……目当ては俺じゃなく、エルザの方らしい!
「エルザっ」
慌てて用を足し終え、こっそり囁く。
「な、なによ!」
驚いたのか、おしっこの音が途中で止まった。
「まだ途中なのに、脅かさないでよ」
「静かにっ。いいから用心してくれ。誰かがこっちへ来るぞ!」
「ええっ!?」
ぎょっとしたようなエルザが(人の注意を無視して)焦った大声を出した途端――足音はあからさまに駆け足に変わった。
「まずいっ」
「だ、誰っ。いやあああっ」
エルザの悲鳴と、俺が老木の陰から飛び出すのが、ほぼ同時だった。




