謝罪は大声で
俺とマヤ様がひそひそやっていると、今度はレージが質問した。
「ところで……仲間は誰も死んでないだろうね? サクラを初めとして、あの連中もみんなさ?」
「無事どころか、俺はサクラに騙されて――」
言いかけ、俺はそこで思い出す。
「そうだ、サクラだよ! ダークピラーって連中は元々邪神ユメの配下だっていうから、それはいいとして、あのセーラー服女はどういうアレなんです? あいつともちょっと話したけど、本人は元勇者に当たる、ブレイブハートだって言ってましたよ」
俺はレージの前に戻り、怒濤の勢いで詰め寄る。
「ブレイブハートは、邪神ユメとやり合ったんでしょうがっ。サクラも日本人として転生していたのは置いても、なんで転生後の今はユメの側なんですかーっ」
あまりに憤慨した物言いだったせいか、レージがたじたじとなっていた。
「いや……そこは俺も不思議だったけど、後から聞いた話では、あいつはブレイブハートとして生きていた時代に、守っていた人間から裏切られたって話だった。……なんでも、ユメに攻められた街の住人が、自分達が助かるために、サクラの家族をユメ達に人質として差し出したとか」
「そ……それはまた」
俺は当初の勢いが消えて、思わず口を半開きにした。
なんと、あの自称勇者のねーちゃんに、そんな事情があったのか。
「それで、今生では邪神側につくことにしたと?」
「まあ、当時は邪神の方が彼女の家族を保護したくらいで、人間側はサクラ達家族に散々なことをしたそうだしね。……ただ、あいつが俺達と一緒にいるのは、別に恩義のためだけじゃないと思うよ」
レージも困ったように眉根を寄せた。
おそらく俺と同じできっついセーラー服ねーちゃんを思い出しているんだろう。
「あいつの前世の恨みは深いってことさ。サクラが俺達についたのは、たまたま俺達が人間の敵として知られていたからじゃないかな」
「……それじゃ、別に魔界の味方をしてくれてもいいような」
ポロッと俺が言うと、レージは思いっきり顔をしかめた。
「冗談言わないでくれっ」
「冗談じゃありませんよ。俺はどっちかというと、敵を増やすよりは味方を増やすことを考えたいですねっ」
今度は俺が捲し立てる。
「だいたい、サクラは血の気が多すぎて嫌だ。戦うと疲れる――て、いつつっ!?」
「もういい、ナオヤ!」
拳を固めて力説する俺の肩を、マヤ様が掴んだ。
その際、またクソ力が発揮されて、肩の骨が砕けたかと思った……こりゃわざとだな。
「この男は敵であり、この男と一緒にいる者もみんな敵だ。それだけわかっていれば、マヤとしては十分ぞ」
身も蓋もなく言い切ったあと、マヤ様はじろりと俺を横目で見る。
「しかし、サクラと言ったか? その女のことは、マヤも少し――いや、かなり気になる。まっさーじの途中、どういういきさつでまた女と知り合ったのか、じっくり聞こうではないか、うん?」
おぉ……俺の肩を握る手がぷるぷる震えているような……最近、嫉妬深くなってないか、この人。いや、ある意味じゃ嬉しいんだけど。
「いや、別にサクラと遊んでたわけじゃ――てててっ、痛い、痛いですって!」
人の言い訳を全く聞かず、マヤ様が俺の首根っこをひっ掴むようにして引きずっていく。無論、この方の腕力に対抗するなんぞ不可能で、俺はずるずると引きずられていった。
こうなるともう俺としては、見張りの兵士を呼びつけるのが精一杯である。まだ、レージに訊きたいことがあったというのに。
ホムンクルス兵士達が活動を停止し、魔界軍の本隊も到着したことで、にわかに砦の中はみっしりと過密状態になった。
まあ、それは仮宿舎を増やすとか、野営とか、いくらでも方法があるからいい。問題は、今後のことだ。どうせ、ユメの側も黙ってないだろうしな。
俺は筋トレかと思うようなマッサージでくたくたになった身体を引きずり、砦にいた頃の自分の私室に皆を集めた。
マヤ様がようやく休んだ今、相談しておかないと、今度はいつ時間が取れるかわからないからな……なんか、いつもマヤ様が眠った後でこんなことしてるけど。
……それはそれとして、ソファーが足りないので、立ってる仲間もいるんだけど、ギリアムとローズが見事に一番遠い位置に立っているのがなんとも。
こいつら絶対、俺がいない間に喧嘩したな。
とそのローズが立ち上がり、わざわざ俺の前に来てしんねりと見下ろした。
「……あっ」
「あ?」
言いかけ、口を噤んだ金髪ねーちゃんと見て、俺は首を傾げる。
遠くからギリアムが叱り飛ばす声が聞こえた。
「ちゃんと言わぬか! 誰のお陰で助かったと思っている!?」
兄貴に促され、ローズはようやく深々と頭を下げた。
「危ないところを助けて頂き、ありがとうございましたあっ」
「わあっ」
急にでっかい声出すな、馬鹿。鼓膜が破れるだろっ。




