怒りの追撃
しかし、ここまで来たら考えてる暇なんかない。
だいたい、どうせボケッと立ってたって、外と内から攻められるだけだしな。
そこで俺は腹の底から声を出して、先頭切って突っ込んで行った。
「うぉおおおお、どけーーーーっ」
まずは横殴りの斬撃をお見舞いし、馬鹿みたいに三体横に並んでいたのを、すかっと片付けてやった。
「ざ、ざまぁ――うっ」
しかし、黒い霧になって消えたそいつらの向こうから、たちまち新手が駆け下りてくる。無尽蔵にいそうでたまらん。
「いいよ、くそっ。こうなりゃ、どっちが先にヘバるか、競争だな!」
俺は夢中でホムンクルス共の中に突っ込み、縦横無尽に暴れ回った。一応、石段を駆け上がりつつも、背後に横の壁が来るように気をつけてはいるが――。
しばしば身体が離れ、背後につかれそうになって冷や汗をかいた。
しかし、幸か不幸か考える時間すらなく、俺は次から次へと来る敵を、魔力付与の刀でガンガン倒していく。少なくとも、レベル的には問題にならん。そこは慰めだ。
「加勢するぞっ」
いつの間においついたのか、レイバーグが横に並び、俺と一緒に刀を振るってくれた。さすがにこいつのバッグアップは心強い!
こいつが横にいるだけで、俺がカバーする範囲が半分になった。
洩らしたヤツは後ろの仲間が何とかしてくれるし、二階までは順調に進むことができた。あと二階分っ。
しかし……ああしかしっ、二階の廊下にも山のように黒いホムンクルスの群れがいて、一斉に襲いかかってきやがった。
「な、何匹いるんだよ、こいつらっ」
無言で俺の前に突っ込んでくる一体を真っ向から斬り下げたが、そいつが霧になるかならないかの間に、もう次の奴がくる。
し、死ぬ恐怖がない奴らってのは、タチが悪いなっ。
「ナオヤ君、伏せて!」
「むっ」
ネージュの声だとわかった瞬間、俺はレイバーグの腕を掴んで、一緒に腰を屈めた。その途端、いつになく凜としたネージュの叫び声がした。
「道を空けなさいっ。ジェットストリーム!」
「えっ」
「うわっ」
伏せてたのに、なんて圧力だっ。しゃがんでたのに、尻が浮きそうになったぞ。
しかし、それくらいで済んだ俺達は幸運だったらしい。ネージュの放った衝撃波をまともに浴びたホムンクルス共は、それこそ風に吹かれた砂みたいな有様になり、真っ黒な霧と化して消えた。
「でかした、ネージュ!」
俺は跳ね起きると、早速、この隙に全力で駆け上がる。
ガラ空きになった石段を上がり、三階の踊り場まで来たところで、ようやく新手とかち合った――が。
なぜかそこで、一階の方から大音響がして、俺の足下が揺らいだ。
「な、なんだっ」
なんで下だよ? と思った瞬間、忘れもしないマヤ様の絶叫が聞こえた。
「マヤを放置して、自分だけ女と突入かぁああーーーっ」
「ぎゃあああっ」
俺は思わず素で叫んじまったね!
こ、こんな時だけ、起きるの早いからなあっ。
しかも……階下の方から「ナオヤあああっ」と怒鳴る声と共に、半端ない駆け足の音が聞こえるではないかっ。
これは……考えるまでもなく、マヤ様が俺を追撃してくる足音である。
「こ、これはまずいっ。妙な誤解してるし、殺される!」
一瞬で血の気が引いた俺は、それまで以上になりふり構わず、ホムンクルス共の群れへ突っ込んで行く。
正直、階段を埋め尽くすこいつらより、下から脅威の追い上げを見せるマヤ様の方がよっぽど怖いわっ。
「男達の中にマヤだけ置いていくとは、なんという薄情ものだっ。どうせミュウといちゃついていたのであろうっ」
お、おまけに、ぜんっぜんっ身に覚えのない冤罪がかかってるぞ!
「きゃあっ、ダークロードが一階のドアを破壊しちゃったから、後ろからもざくざくホムンクルス兵士が来るわようっ」
「ナオヤ様っ」
ネージュとギリアムが叫んだが、俺はもう振り向かなかった。
真紅の瞳と目が合うの、怖すぎだからな。
「ヤバいんだから、どけえっ」
お陰で、無駄な気合いが入った俺は、いつしか四階まで駆け上がり、勝手知ったる廊下を駆けて、目指す奥の部屋に突入する寸前だった。
それはいいが、いつのまにかレイバーグに代わり、ミュウがぴったりと俺にくっつくように隣に来ていたりする。
「ど、どうしたっ!?」
「いえ」
ミュウは済まし顔で笑うと、ホムンクルスが繰り出した剣撃を無造作に「素手で」握り、そのまま腹を蹴飛ばして霧に変えてしまった。
「どうせ疑われるなら、本当にいちゃいちゃしたいです……と思いました」
「な、なにを言ってんのかね、君わっ」
思わず素っ頓狂な声が洩れてしまったじゃないか!
「ナオヤ、見つけたぞ!」
また後ろから声がして焦り、俺は思わず振り返ってしまう。
おぉお、例のごつい剣を風車みたいに振り回すマヤ様が、廊下をガシガシ追い上げてくるぞ。追いつくのはやっ。
ホムンクルスに包囲されてんのに、全然応えてないしっ。ミニスカートなのに、今にも下着が見えそう。
しかも、予想通り真っ赤な瞳と目が合って、死ぬほどびびったし!
「わわっ」
焦った俺は、最後の数歩を走り抜き、奥のドアを思いっきり開けた。




