砦攻略(の予定)――その7
――その7
◆
行軍を再開しつつ、ヨルン達第二次斥候隊の帰還を待ったが――。
結果は判断に迷うものだった。
空振り……というわけでもないが、とりあえず敵軍の姿は付近にはないらしい……現時点では。ただ、大量の馬の蹄や人の足跡が近くに残っていて、しかもその足跡はきっちり三方向に分かれて散っていたという。
国境のある西の方へ戻っていくものと、南へ向かうもの……それに、俺達が出立した帝都マヤのある、東へ向かうものだ。
「う~ん」
夜になり、軍勢が野営して寝静まる頃になっても、俺はまだ唸っていた。
一応、俺達を狙う軍勢でもなさそうだが……かといって、これを無視するのもまずい気がする。まあ、残っていた足跡や蹄の人数は、仮に帝都が襲われても全然大丈夫な規模だったそうだが、それでもだ。
何より、なぜか来た方向へUターンする足跡まであったところが、非常に怪しい。
このわけわからん痕跡のことを聞いて、俺はある疑いを持っていたが……しかし何の証拠もないので動きようがない。
せいぜい、貴重な戦力から伝令の人数を割き、帝都マヤと今はもう行軍中のはずのマヤ様に、この発見を知らせるよう頼んだ程度だ。他にどうしようもないわな。
……とりあえず、見張りは立ててるし、トイレ(立ちションになるが)を済ませて寝るか。
いや、その前に砦の攻略も考えないといけないんだよな……くそ、指揮官がこれほど悩ましいとは! 奴隷の時は戦略なんて考える立場になかったからなー。
首を振りつつ陣地を離れようとして、俺は気付いてしまった。
昼間ひっ捕まえた新たな間諜の男と、例の色気エルザがコソコソしゃべっている。どうやらエルザは、彼女の見張りをしているボンゴが爆睡している隙を見つけ、そっと男が拘束されている場所まで移動してきたらしい。
つか、男が縛られている場所にも見張りがいるんだが、そいつも爆睡してやがる。これだから、万事が適当な獣人共はっ。
俺は足早に近付いて二人を引き離そうとした――が、思い直してこっそり目立たないようにそばまで寄った。幸い、月も出てない暗がりなので、目立たないように接近すれば、見つからない……はずだ。
『それは本当なの、ギル!?』
エルザの声が聞こえ、俺はその場でうずくまる。
さすがにこれ以上近付くのはまずそうだ。
『ああ、本当だ』
ギルと呼ばれた例の男が答える。
『しかしエルザ、おまえは何をもじもじしてる?』
『べ、別にっ。いいから続けて』
エルザの声は、なぜか切迫していた。
不思議だったが、とりあえず男の方は話を続けてくれた。
『俺は念のために放たれていた斥候なんだが……まさか、自分が敵に見つかるとは思わなかった。いつも隙だらけの魔族軍が、今回に限ってちゃんと斥候を放っていたとはな』
『あのナオヤって子、奴隷上がりらしいわ。だから、他の猪突猛進の兵士と違って、用心深いのよ』
『ふん。いくら用心深かろうと、あの砦をこの人数で落とすなど、不可能だろうさ。問題は、我らの計画がバレることだが――そちらは大丈夫だろうな?』
我らの計画ってなんだ、おい!
俺はますます耳をすませ、ボソボソした会話を聞き取ろうとする。
『大丈夫。少なくとも、今貴方が話してくれた作戦については、この人達は何も知らないわ。だからどうせこのままだと』
『しっ。エルザ、黙れ! 誰かが近付いてくるっ』
「二人とも、そこで何をしているっ。おまえ達は、ナオヤ様があえて離しておいたはずだぞ!」
ギリアムの叱声が聞こえて、俺は暗闇で派手にずっこけた。
くそっ、何というバットタイミングで来るのかっ。いや……熱心に陣中を巡回しているのは見上げたものだし、むしろ褒めてやりたいくらいだが。
でもなあ、このタイミングはないよなっ。ホント、あとちょっとでいい話が聞けたかもしれないのにさ。
憤懣やるかたない思いだったが、こうなっては仕方ない。
俺は立ち上がり、さりげなく騒ぎの現場に近付く。
ちょうど、エルザの見張りだったボンゴと男――ギルの見張りの奴隷が叩き起こされ、ギリアムからガミガミ叱られているところだった。
「だいたいおまえ達はっ――あ、これはナオヤ様」
律儀に一礼する金髪のギリアムに、俺は危うくしかめっ面を向けそうになった。
まあ、別にこの人のせいじゃないしな。むしろ、仕事熱心ですげー人の気がする。
「ご苦労様……問題かな?」
「あ、あにぎぃ……ごめんよぉ……おで、我慢できなくて寝ちまって」
叩き起こされたボンゴが、巨体を縮めるようにしてぺこぺこ謝った。
「なるほど、エルザと彼が密会しちまったか――」
ギリアムの報告にわざとらしく頷き、俺は肩をすくめる。
「もういいけど、今回はよい教訓だったろ? 今度は交代までちゃんとがんばってくれな。せっかく奴隷長に上がったんだし(俺が引き上げた)」
うんうんと何度も頷き、本当に申し訳なさそうにボンゴがまた頭を下げる。
そのままエルザを引っ立てようとしたが、今度はエルザがただでさえ(ロープのせいで)目立つ胸を突き出し、俺に文句をつけた。
「それより、あたしのおトイレを何とかしてくださいなっ」
「あ、そうか」
どうせ、内緒話を追求されないための申し出だろうとは思うが、半分以上は本心かもしれない。なにせ、内股の膝がガクガク震えている。
これまで、だいぶ我慢してたと見える。




