でたっ!?
「本気かい!?」
レイバーグが顔をしかめて言った。
「総指揮官が砦の主塔にいるということは、そこが最も防備が固いわけだろう? 事実、あの不気味なホムンクルスの兵士達は、主塔の周りを囲むように配置されているよ」
「そうだけど……ひょっとしたら、既に砦内に入ってる俺達には、反応しないかもしれないじゃないか」
俺は自分でも信じていない、希望的観測を述べた。
「実際、さっきの傭兵連中だって、全員が主塔の方へ行ったわけだし……奴らだって、特に襲いかかられてるような形跡ないし」
「それは、なにか秘密があるんじゃ――」
「とにかくっ。今は一刻を争うんだよ。ローズを助けるんなら、今すぐ動かないと、いろんな意味でヤバいだろっ」
――特に、貞操的な意味でなっ。
最後だけは声に出さずにおいたが、さすがにレイバーグも黙り込んだ。
自分が同じ立場だったらと考えると、やはり思うところはあるんだろう。
「わかったら、ほらネージュ! 俺に透明化の魔法頼むっ」
「……仕方ないわね、ローズお嬢様の貞操のためだしー」
俺が口に出さなかったことを、ネージュはあっさり言ってくれた。
それはいいが、ネージュが詠唱に入った途端、ミュウもギリアムもレイバーグも、みんな俺達のそばに寄ってきたしな!
「いやだから、俺だけでいいって――」
人が慌てて押し止めようとしてるのに、ネージュはさっさと詠唱に入って、最後に「インビジブルっ」といつぞやみたいに声に出し、俺達全員に向かってさっと手を振るようなポーズしやがった。
「げっ。もしかして、全員にかけたとか!?」
「そうよ。最初からあたしも行くって言ったじゃなーい」
ぶりっこ風にネージュが言ってくれたが、おいおいおいっ。
「侵入部隊の指揮官クラスの全員が、部下を置いて単独行動取って、どうすんだよっ」
「今、そんなこと言ってる場合じゃないわよ」
ネージュはわざとらしく早口で言い返した。
「今頃、ローズはレージとやらにベッドに押し倒されて、青いパンツ脱がされてるかもっ。あるいは足を広げられて今にも――」
「だあああっ、わかったよ! 上官を脅すな、馬鹿っ」
俺は足を踏み鳴らしてネージュを遮った。
つか、ギリアムがぎょっとした顔で「なんで妹の下着をご存じかっ」なんて言ったぞ、今。なんと、マジで色は青かっ。
「よ、よし、じゃあ俺に従ってついてきてくれっ」
ぼ、煩悩に塗れている場合じゃないな。
俺は鉄の意志で前を向くと、早速主塔に向かって進み始めた。こうなったら、とっとと救出作戦を済ませよう。
俺達が四層構造の四角い主塔に近付くと、ちょうど、あの髭のおっさんを筆頭に、ぞろぞろと傭兵達が戻ってきた。
一瞬、鉢合わせしそうで肝を冷やしたが……幸い、おっさん連中は「寸前でお預けかよ、クソがっ」とか、「俺なんて既にベルトに手を掛けてたのにようううう」とかの愚痴を並べるのに忙しく、俺達の方など見向きもしなかった。
どうやら、透明化というかインビジブルの魔法はちゃんと効いているらしい。
無事に連中をやり過ごし、俺達はいよいよ主塔の入口に接近する。
石造りの主塔の周囲には、それこそ十重二十重にと、全身真っ黒のホムンクルス共が待機しているのだが、一応入口の前だけはちゃんと道が開けている。
それはいいが……こいつらにも俺達が見えてないんだろうな、ちゃんと?
真っ黒とはいえ、ちゃんとプレートアーマーみたいなのを装備してるし、割とフル装備の兵士達なんで、戦いになったら嫌過ぎる。
俺は振り向くと、唇の前に人差し指を持ってきて、みんなに静かにするように合図した。
ミュウ以外は全員が緊張した顔で頷き、俺達はまたそろそろと前進を開始する。
モーゼが海を割ったような状態になっている、兵士達の間の細い隙間を、そろりそろりと進んでいく。主塔を囲んでいるこいつらは全然動かないし、会話なども当然、しないので……不気味すぎる。
置物みたいに見えるけど、もちろんいざとなったら思いっきり機敏に動くのは、もうわかってるしな。
最後まで何事もなく行ってくれよ……あと十五メートルほどだし。
反応はない……反応はないぞ……よし、やっぱり連中にも見えてないようだ。みんな大人しく固まったままだしな。この分だと、大丈夫そうか……あと、十メートル。
……もうちょっと、あとちょっと……主塔の入口まで、あと――。
そろそろ心の中で成功を確信しかけた途端、一番主塔の扉に近いところに跪いていた奴が、いきなりすっと立ち上がった。ええっ、見えてないはずでは!?
「げげっ」
思わず声を上げてしまったが、それには反応せず、そいつはボソッと口にする。
「合い言葉――を言えっ」
「で、でたぁあああああ」
いや、思わず素っ頓狂な声を上げちまったね!
だってホムンクルスにこれ言われるパターン、前にもあったからなっ。あと、こいつらには透明化の魔法とか関係ないのかっ。
「くそっ。おっさんに合い言葉を訊いておくんだったあっ」
頭を抱えちまったが、もう遅い。
さっきまで周囲で大人しく跪いていた奴らが、全員音もなく立ち上がったじゃないか! 総勢、数百名はいようかという、ホムンクルス兵士達がっ。
そして、最初に声を出した奴が、また無感動に促した。
「合い言葉――を言え。言わねば――攻撃するっ」




