薄い本の展開
でっかい声を出すと、レイバーグより先にミュウがさっと動き、ブランケットをベッドの一つから剥がして持ってきてくれた。
俺はそれを小さく枕状に折り畳んだ後、またレイバーグに頼む。
「悪い、これ持ってて」
「あ、ああ……それはいいけど」
なんでボクがブランケットを? という顔で受け取ったレイバーグを無視して、俺はマヤ様の頭にそっと手をかけた。
……おおっ!? な、なんというツヤツヤした手触りのよい髪……これは興奮するなっ。て、そんな場合じゃないか。
俺は両手で頭を挟み込むようにして触れると、そっと持ち上げた。すかさずレイバーグに「俺が立ち上がるから、おまえは即座にそれを頭の下へっ」と頼んだのだが――そう頼んだ途端、マヤ様がきゅっと眉根を寄せ、いきなり言った。
「不届き者めえっ! 許さぬぞおっ」
「ぎゃああっ」
俺が思わず声を洩らした途端、ギリアムとネージュまで同時に声に出した。
「し、失礼しましたっ」
「ひゃんっ」
当然、辛うじて沈黙を保ったミュウとレイバーグ、それに他の有象無象の仲間までが、青ざめてマヤ様に注目する。
しかし、別に目を開ける様子もなく、マヤ様は寝ぼけ声で続けた。
「ったく……マヤが見ていないと、すぐに女とどこかへ行こうとする……とんでもない奴だな……むにゃむにゃ」
ね、寝言かい! タイミング的に、すげー紛らわしいよっ。
しかし、今の可愛い声だったな……最後の、声にならないむにゃむにゃの辺りが特に。
ニヤけそうになった俺を、なぜか全員が注目していた。視線が痛いぞ。
「ははは……だ、誰のことだろうね、本当にもう」
わざとらしくトボけ、俺はそおっと立ち上がった。
「ほ、ほらっ。早くブランケットを下にっ」
「わかってる!」
なぜか腹立たしいそうに吐き捨て、レイバーグはブランケットを置いた。
まあ、なにを不機嫌になってるのか知らんが、本番はこれからだ。
身代わりミッションは成功し、俺はネージュとミュウ、それにギリアムとレイバーグを引き連れ、部屋を出た。ただ、出る前に「みんな、何があってもマヤ様を起こすなよ! 今起こして俺達の不在が知れたら、八つ当たりで殺されるからなっ」とぶっすりと釘を刺しておく。全員、見事に本気にして震え上がっていたので、まあ大丈夫だろう。
だいたい、あながち冗談でも脅しでもないし。
そこで俺達はようやく、臨時宿舎となった建物をそっと出てみる。
……でもって、探すまでもなく、ちょうど引っ立てられていくローズがいるんだな、これがっ。
頭が痛くなるが、目に青あざ作ってるトコ見ると、どうやら早くも殴られたらしい。
今や体中を縄で縛られてがんじがらめになっているが、その周囲は男臭い傭兵達で黒山の人だかりになっている。
うわ……これはちょっと……容易に助けられないぞ。
「おう、おまえも整理券ほしいクチか?」
聞き覚えのある声がしてそっちを見ると――。
先頭で縄尻を取って引っ立てているのは、俺達を案内してくれた、髭もじゃのおっさんだった。
「見たところ、女もいるようだが、そいつらも?」
おっさんがネージュやミュウを見ようとした途端、二人はさっと小汚いローブの前をかき合わせた。一応、また偽装のために羽織ってたのだな。
それより、さすがに俺は困惑して、訊き返した。
「ええと、整理券というと?」
「わからんか? まだまだ純真じゃのぅ、小僧」
おっさんはニカッと欠けた前歯を見せて笑うと、なぜかその場で腰をクイックイッと前後に派手に動かしてみせた。何の踊りだよ、気色悪い。
「つまりよ、ナニの順番のことよ! 既に希望が殺到しててなぁ……整理券を作ろうってトコさね」
「ナ、ナニの順番!?」
俺は顔をしかめて考えたが……しかしおっさんの腰の動きを思い出して、さすがに気付いた。ナニって……そ、そのナニかぁああああ。
「いやぁ、こいつぁ上玉だからなぁ。もう整理券も五十三番目以降になるぜぇ」
他の傭兵が横から口を出し、ゲハゲハ笑う。
「えぇえええ……いや、尋問とかしなくていいんで?」
「尋問だぁ? んなもん、いらねーべ。侵入してきた女なんか、俺達のモンで確定だろう。なあ?」
おっさんが周囲の仲間に訊くと、みんな大声で嬉しそうに応えてたねっ。
しかし……五十三番目ってことは、放置してたらローズは五十二人にその……うわぁ……薄い本の展開そのままだしなっ。
俺が一人で赤くなっていると、おっさんは俯いて肩を震わせるローズを突き飛ばし、「まあ、気が向いたら整理券取りに来いや。その時は三桁行ってるかもだけどなあ。ぐわっはっは!」
などと下品に笑い飛ばして歩き去った……紙切れ(整理券?)持った面々と一緒に。
「ああああああっ」
「これは……むうう」
ギリアムは石みたいになって固まってるし、レイバーグは赤い顔を手で覆ってるし、俺もマジで参った! まだ味方が攻め込む時間まで間があるし、どうすんだよっ。
などと呆然としていると、ミュウが「あのぉ」と眉根を寄せて声をかけてきた。
「な、なに?」
名案でも思いついたのかと思って、俺はぱっとそちらを見る。あいにく、全然違った。
ミュウはおっさんの真似をしてクイックイッと前後に腰を動かし、「なんの合図でしょうか、これ」と大真面目な顔で訊いてくれた。




