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乱闘ないし、寝る

 

 悩んでいる間に、俺達は宿舎の中に案内され、まとめて大部屋みたいな場所に押し込まれた。


 木製の二段ベッドが七つも寄せて置いてある場所で、あとは薄いソファーしかない。いや、あのクッションの厚みからして、こりゃもうベンチだな、ベンチ。

 それと、一応は予備の寝具も隅に積まれている。ベッドからあぶれた奴は、あれを使って床で寝ろってことかね。




 案内してくれた男は俺達が絶句する様を見て「ああ、すぐに増築する計画だから、そんな長くじゃないさ。これからバンバン宿舎ができるから、そうなったら個室に移るといいぞ」などと早口で言って、そそくさと去ろうとする。


 その辺で、俺はようやく使命を思い出し、呼び止めた。


「ええと、すいませんっ。首領というか、雇い主に当たるレージさん? とにかくその人に挨拶しておきたいんですが……へへへっ」


 わざとらしく腰を屈め、卑屈モードになって尋ねてみた。

 いきなり会わせてくれるわけないだろうが、せめて居場所でもわかればと思ってさ。


 この試みは、幸いにして上手くいった。おっさんは難しい顔をして腕組すると、こう言ったのだ。

「いやぁ……あの人は主塔の最上階にいるらしいけど……なんか、俺らが会うのは、いつもツンケンした女の剣士か、貴族風の若造だけだぞ? どっちも今はいないけど」

「では、レージ――殿と並んでトップに立つ、もう一人の女性指導者というのは?」

 これは、気を利かせた部下の一人が訊いてくれた。


「女性指導者ぁ?」

 おっさんは顔を歪めて少し考え、ようやく腑に落ちたように頷いた。

「おお、そうだった。レージって人といつも一緒にいた女の子な。あの子は今、用事でルクレシオンの方へ行ってるねぇ。でもどうせ戻ったって、やっぱり俺達には会わないだろうけどよ」

 そこで俺達はそっと視線を交わす。これは……もしかしなくても、チャンスじゃないか? 最初の情報と違い、問題の邪神っぽい女神は、この砦を留守にしているらしい。ということは、レージ軍の主立った奴って、今はレージ本人くらいしかいないわけだ。


 ――よしっ! 


 俺がささっとそこまで考えたところで、どこか遠くで兵士達の怒声が聞こえてきた。

 あと、大勢が走る足音とか、ざわめく声が。何があったんだろう。


 ちょうど、部屋を出るところだったおっさんも、びっくりしたように「なんだぁ?」と声を上げ、俺達に挨拶もせずに駆け去ってしまった。

 置き去りにされた俺達は呆然と顔を見合わせたのだが……なんか、外の騒ぎが気になるな。いや、侵入した俺達が全員ここにいる以上、別に関係ないはずなんだけど。


「俺もちょっと外へ様子を」


 この際、念のために俺も外の様子を見ようと思ったんだが――。

 大人しかったマヤ様が、思い出したように声を出した。





「ナオヤ、それよりこっちへ」


 なぜかマヤ様は俺の腕を掴んでぐいぐい引っ張ると、隅っこに置かれたガタガタのベンチに俺を座らせた。

 そして、ご自分はぼろっちいローブをふぁさっと脱ぎ捨てると、いきなり大あくびしてベンチに横になってしまう。……人の(俺の)頭を枕にして。


「な、なんですっ!?」

 いきなりのことで驚く俺に、マヤ様は薄目を開けて答えた。

 もう目を閉じてたんかいっ。


「せっかく乱闘を期待していたのに、あっさり入れて拍子抜けした。そしたら、今更のように眠気が……(大あくび)……してな。マヤはしばらく眠る故、枕代わりを頼む。どうせナオヤは、寝ないのであろ?」


「た、頼むって」

 仲間の視線が大変痛く、俺は自然と声を低めた。

「ベッドが幾つもあるんだし、そこにお一人で横になればいいでしょう」


「い・や・だ!」


 なぜか、きっぱりはっきり言い切ってくれた。

「こういう場所の小汚いベッドには、絶対にかゆくなる虫がいるのだぞ。以前、ひどい目に遭ったことがあるから、マヤは知っているのだ。だから、まだこうしてベンチで……眠った方がマシだと学習……した」

 あああああ、もう語尾が半分寝てるっ。早っ!


「でも、後続部隊が突入してくる夜明けまで、あと数時間ですよっ」

「では……数時間は……眠れるという……ことではないか」


もう夢の中にいるような寝ぼけ声で言ったかと思うと、最後はまた大あくびして、マヤ様は完全に目を閉じてしまう。


 膝を枕にして、顔を俺の方へ向け、猫みたいに身を丸めてしまう。豪奢な金髪の頭をあちこちに動かして、一番寝やすいポイントを探したりしてな。

 くどいが、人の膝の上で!


「いつもなら眠っている時間だし、寝直す…………なにかあれば……起こすが……よ」


「いやちょっと――てもう寝てるしっ」

 止める間もなく、寝込んでしまわれた!

 軽い寝息が聞こえるので、俺にはわかる。こうなると、滅多なことじゃ起きないぞ。頭を抱えた俺に、大口開けて眺めていたギリアムが呟いた。

「あ、あの陛下が……魔界の全種族が震え上がるダークロードが、膝枕でお休みとは」


「まあ、ナオヤ君だからでしょうねぇ。うっふっふっ」


 ネージュがけらけら笑って言ってくれたけど、いや、感心してる場合じゃないからっ。


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