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早速、障害発見

 

 全員、緊張した顔つきで頷き、用意しておいた白い布を持ち上げ、振る……振りまくる。


 どうやら防壁の上にいた見張りは早くから俺達の接近に気付いていたようで、俺達の合図を見ると、すぐに下に向かって何か喚いていた。

 おそらく、そこに仲間がいるのだろう。


 そのまま何も反応がなくて、俺達の緊張感はいやが上にも増していく。

 俺はいつの間にか、こっそりと腰の刀に手を置いていた。




 この緊迫した場面で、後ろの方で誰かが「くっくっく!」と笑う声が聞こえてぎょっとしたが……振り向くと、マヤ様が口元に手をやって押し殺した笑い声を上げていた。


「な、なにがおかしいのですかっ」


 俺はたしなめるつもりで、小さく囁く。

「いや……この緊張感がたまらなく心地よいなと思ってな」

 平然とそんなことを言ってくれたよ……心臓に悪い。

 下手したら、砦から大量に敵兵が出てくる可能性もあるってのに、なんという余裕だ、しかし。


 ただ、ちょうどそこで砦の正門――の横にある小さな門(まあ通用門みたいなの)が開き、髭もじゃの男が顔を出す。

 俺達が揃ってそいつの方を向くと、こっちを見てニカッと笑った。

 派手な仕草で手招きするので、こっちも怪しみながら接近する。とうとう門の前で来たが、そこでそいつは陽気に声をかけてくれた。




「おぉ、おまえらも志願組かぁ? いやあ、ここは美味しいよなぁ。さあ、遠慮せず入った入った!」


 ――えっ。

 あまりにも友好的な言い方に、正直俺は脱力した。

 偽装のために、この即席傭兵団のリーダーをやらせてる二等戦士も、目をぱちくりさせて答えている。


「いやまあ、志願兵には違いないんだけど……なんだ、そんなにたくさん来るのか?」


「来るとも! 今晩なんか、おまえ達で五組目だな」

『へぇえええええ』

 期せずして、俺達は声を合わせてしまった。

 なんだよ……別に緊張することなかったのか? 

 俺は一瞬、苦笑しかけたが……でもまあ、緩んでいいわけないな、うん。なにしろ打ち合わせでは、夜明けには残してきた部隊が城まで攻め込んで来るわけで。


 それまでに、きっちり城門を開ける手はずを整えておかないと。




 それでも、思ったより易々と、しかもノーチェックで砦の中に入れちまったので、俺は予定を変更してこの場では透明化の魔法を使わないことにした。 

 この分だと、傭兵のためにあてがわれた場所に案内してくれそうな雰囲気だったし。


 事実、手招きして入れてくれた傭兵のおっさんによって、俺達は傭兵ばかりが暮らす場所に連れて行かれた。

 そこは砦の主塔キープ、つまり防壁の真ん中にある石造りの建物ではなく、そこより少し離れた場所に何棟も建てられた、木造四階建ての校舎みたいなトコだった。


 以前、俺達がここにいた時には下級兵士の兵舎として使われていたが、今や傭兵達の住処になっているようだ。

 誰かがさりげなく訊いたところ、志願傭兵がやたら多いので、今後はさらに増築する予定らしい。


「ほら、レージ軍はホムンクルスがむちゃくちゃ多いだろ? だから、建造もそいつらがパパッとやってくれるらしい。奴ら、なかなか便利だぜ? 俺もちょっと驚いたんだが」


 宿舎まで案内してくれたそいつは、振り返って急に砦の主塔の方を指差した。

「もちろん、いざという時には、ちゃんと戦いに加わってくれる。むしろ、そっちが主目的だからな」


「うおうっ」


 思わず俺は声を上げてしまったが、幸い、他の者もざわめいていたので、目立つことはなかった。

 でもまあ、普通は驚くだろう。

 黒い鎧みたいなのをまとった、画一的な集団がじっとうずくまっているのを見たら。


 暗かったし、最初に見たさっきは、てっきりなにか土嚢どのうでも積んであるのかと思ったが、全然違った。

 主塔の周囲にずらりと何列も列を作って待機しているそいつらは、よく見たら明らかにホムンクルスに見えたし……しかも、全員がまっったく動かない。

 そりゃ、土嚢どのうに見間違えるはずである。


 ターミネーターが転移した直後、よく小さくうずくまったポーズで固まってるけど、ちょうどあんな姿勢だ。

 ああいうポーズでずらっと並んでいる。




「ははは、笑えるだろ? なあ、すげーよなー」

 人の気も知らずに、髭のおっさんは笑ってくれた。

「傭兵団なんか、別にいらねーんじゃね? と思うが、やっぱり意思疎通のできる人間達もいるんだってさ。でもまあ、あいつらは戦いになると命知らずに突っ込んで行くから、俺達からしても心強いよな。戦いが楽でいいやっ。がっはっは!」


 咽の奥まで見せて爆笑するおっさんを尻目に、俺はかなり頭がくらくらした。

 いや……だってあいつら、どう見ても結構な数いそうだぞ。

 これは、そもそも砦内の兵力を見誤ってたかもしれん。

 当初、斥候は「兵力の推定は五百程度」とか報告してくれたが、明らかにあの待機ホムンクルスを数に入れてないしっ。

 他にもああいう連中がいたとして……下手すると千くらいはいるかもしれんな、この砦の中に。


「まあ、部屋割りはまた明日するけどよぅ、とりあえず今日は、こっちの広い部屋で雑魚寝で頼むわー」


 明るく言うおっさんについてぞろぞろ仮宿舎の中へ入りつつ、俺は一人で苦悩していた。


 もしかして、こりゃ「攻撃中止」の合図を出すべきかね……。


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