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変装パート2


「ええと」

 俺が頭を掻くと、ローズはやたら険しい目つきで言った。


「ええとではありませんっ。お忘れでしたか!」


「いやぁ、忘れたというか、そもそも入ったばかりの新兵に砦潜入任務って、有り得ないだろ? だからだよ」

 おおっ、自信なかったけど、話してるうちになんとか上手くまとまったぞ!

 などと思ったのに、このねーちゃんがまた、凜とした瞳で言い返すのだな。


「前にも申し上げましたが、経験しないと軍務を学べませんっ。それにお言葉ですが、経験豊かなはずの戦士将も、前回は任務を失敗なさいました」


 おろおろしていたギリアムが、ここでぎょっとしたようにローズの腕を取った。

「ローズ、よさぬかっ。身分の差を考えよ!」

「兄上は黙っていてくださいっ」

 おぉ、さすがに無駄に気が強いローズだ。兄貴のギリアムが注意しても、むしろ猛然と言い返してるぞ。


 ……ちなみに俺は、前に失敗しただろっと攻められるようなこと言われても、ちょい胸が痛くなっただけで、腹は立たない。だって俺が失敗するのなんか、不思議でもなんでもないしな。自分を高く見積もったことなんざ、ないわけで。


 だからおおむねのんびりとローズの糾弾を聞いていたのだが――そばにマヤ様がいたのを忘れていた!


 なんか腕にさあっと鳥肌が立ったので慌てて横見ると、真紅の瞳になったマヤ様が、ローズ達の口論を睨んでいた。






「序列をわきまえぬようだな……斬るか」


 などと、危険過ぎる呟きも洩らしたぞっ。

 こ、これはヤバい。

 俺は密かに戦慄した。前と違い、今回のローズは別にマヤ様にたてついているわけじゃないけど、この人は怒ったらそんなの関係ないからな。


 事実、俺より先に危険な兆候に気付いたネージュやエルザなどが、口をパクパク動かして俺に合図してたよ!

 ちょうどそこでマヤ様が大きく息を吸い込んだので、俺は先んじて怒鳴った。


「全員、静かにっ」


 日頃出さない怒声だったせいか、さすがにギリアム達もぴたっと言い争いを止めてくれた。俺はこの隙に一歩前に出て、厳しく申し渡した。

 もちろん、マヤ様が見えないところで、ギリアム達に必死で目で合図している。

 おまえら――というかローズは、いい加減でマヤ様の気性を知れやと!


「俺が命令下した以上、これはもう決定事項なのっ。とにかく、今命令した線で行く。以上、内々の軍議は終わりだっ」


「でも――」

「ははっ。了解致しましたっ」


 ローズより先に、力一杯ギリアムが叫んだ。

 さすがにギリアムはマヤ様の怒りに気付いてくれて、慌ててローズを隅へ引っ張っていった。今度こそ、問答無用である。


 レイバーグも何となく事情を察したのか、唖然として俺とマヤ様を見比べている。

 ただ、俺はそんなに構ってる余裕もなく、自分も手を伸ばしてマヤ様の腕を取り、ぐんぐん引っ張っていった。





「な、なんだ、ナオヤ」


「なんだじゃありませんっ。そういうことでありますから、早速変装しましょう、変装変装っ、いやぁ楽しみですね!!」


 マヤ様はそれでもしぶとく振り向いてローズを見ようとしていたが、俺があまりに必死こいて引っ張るものだから、途中から諦めて引っ張られるに任せていた。

 その代わり、後ろでぼそっと言ってくれたが。


「ふんっ。ナオヤがいかに庇おうと、マヤは近々あの者を斬る気がする」


 こぇえええ……たまらんな、しかし。

 いつも俺が居合わせるとは限らないし、ギリアムの気持ちを考えると気が気じゃないぞ。


 あんな心臓に悪いねーちゃんを配下に加えたのは、間違いだったんだろうかね。






 途中で余計な冷や汗をかいたが、とにもかくにも準備は完了した。

 マヤ様には、灰色の小汚いローブを羽織ってもらい、豪奢な金髪にはぐるぐるとターバンみたいな布を捲いて誤魔化した。


 それでも顔だけ出てると、あまりにも傲慢かつ超美形な容貌が丸わかりなので、レンズの大きな眼鏡をしている兵士を探してきて、その眼鏡を借りてかけてもらった。


 そこまで隠しまくって、ようやく何とかなったが……まあ、他の変装要員の中に紛れてないとヤバいな。

 ちゃんと透明化の魔法で寸前で隠れないと。


 ……不安材料は多いが、あとは二頭の馬に荷物を積み、俺達を含めて総員二十名程度の、偽装傭兵団ができた。

 俺は、まだレージやその邪神とやらに顔は知られてないはずだが、一応は俺も変装している。まあ、せいぜいいつもの服の上にローブ羽織ってるだけだけど。


 あと、傭兵に偽装させた部下の中から、いかにも食い詰めた傭兵っぽい男をリーダーに仕立て上げ、そいつを先頭にして砦まで接近していく。

 途中まで全員が乗馬していったが、最後は荷物を積んだ二頭以外は、尻を叩いて元来た方角へ放した。


 貧乏傭兵が全員乗馬しているのもおかしいからな。

 荒野を通る街道を歩き、ようやく前方に見慣れた砦が見えてくると、マヤ様を除く全員が緊張するのがわかった。


 ここから見る限りじゃ、防壁の上にいる見張り以外は、特に過剰な警備をしている様子はないけどな……せっかく日が昇る前に着いたんだし、ここはすぱっと鮮やかに行きたいものだ。


「いよいよだぞ、みんな」


 敵の見張りが声を掛けてくる前に、俺は皆に合図した。


「白旗掲げて、敵意のないところを見せるんだ」


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