自己主張の強いあの人
俺の横へ馬を進めようと隙を窺っていたミュウが、そこで冷静な突っ込みを入れた。
「そもそも、かつて予定通りに進んだことがないですね」
うわ……ミュウまでがそんなことをー。
「これは駄目だぜ、ナオヤ。ミュウまでギリアムさんの真似を始めたら、もうおしまいじゃね?」
嬉しそうにヨルンが言いやがるしなっ。
「い、いえ、違いますっ」
ミュウが慌ててフォローを入れた。
「私が言いたいのは、ナオヤ様を支える自分達がいつも不甲斐ないとっ」
おそらく本気の言葉なんだろうけど、今更おせー。
みんなもう、「うわ、もう絶望的なプランBだー。出たトコ勝負だあああ」と頭を抱えてるし。
「とにかくさ、次善の策があるわけだね?」
真面目なレイバーグが急いで話を戻した。
……どうでもいいけど、おまえこのところ、胸にサラシみたいなの巻いてないだろ? 以前と違って、膨らみがかなりわかっちゃってるぞ。
もはや、男装のコスプレした凜々しい女の子になってるしな。
俺は鉄の意志で奴の胸から目を逸らし、きっぱりと言い放った。
「おう、任せてくれ。以前、あそこを占領した時に使った、素晴らしい手がある。その気になりゃ、今回だって有効さ……多分」
言った途端、今度はヨルンとエルザが同時に言いやがった。
「ええ、またあの無茶作戦かよっ」
「またあんな思いするの、あたしは嫌ですからねっ」
「なら、この作戦が成功するように祈っててくれ」
俺はぶすっと言い返した。
まあみんなが何をどう言おうと、別に違う作戦を考えてくれるわけじゃないしな。結局は、俺の考えた方法で行くしかないんである。
ただ、一つ大きな計算違いは、砦にいよいよ接近して予定していた地点に到達する直前、爆睡していたマヤ様が、珍しく起き出したことだ。
都合の悪い時に限って寝覚めがいいんだよな、この方はっ。せっかく、寝てる間にこっそり行こうとしたのに。
そして予想通り、着替えたマヤ様は、俺に向かって元気一杯に言ってくれたんである。
「当然ながら、マヤも同行するぞっ」
「えぇええええっ」
「なんだ、不満なのか!」
俺が不用意に悲鳴を洩らすと、マヤ様はたちまち膨れっ面になり、また俺に飛びついてきてヘッドロックかけようとした……密かに身内だけで軍議中だったっていうのにさ。
「不満はないですないですっ、どうせ止められませんし! しかし、さすがにその格好はちょっと」
俺は、夜目にも鮮やかなコルセット付きドレスとミニスカート、それに例によって黒いストッキング姿のマヤ様を見て目眩がした。
衣装もアレだが、色がエナメルみたいにテカテカ光る真紅という……なんというロックな格好だ! どこをどう見ても、仕事募集中の食い詰め傭兵に見えんっ。
俺は馬を降りてプチ軍議中だったみんなから離れ、マヤ様にコソコソ注意した。
「みんなで白旗掲げて、仕事欲しい傭兵を演じて行くわけですよ。その格好だと、どう間違っても傭兵に見えませんて」
「問題ないから、案ずるな。前に奴隷に化けたように、小汚いローブでも被ればよい」
心配すんなっとばかりに、マヤ様は気安く俺の肩を叩く。
「……はあ」
いや、悪いがすげー心配だし、不安だ。
まあしかし、今のところはあの砦にブレイブハートとやらのサクラもいないし、例のアランもいないはずだ。最新の情報じゃ、奴らはまだあの北の城に籠もってるって話らしいしな。
じゃあ、俺が気をつけていればいいか……て、なんか前もそういう妥協をした結果、見事に帝都の門で見つかった気がするが。
俺は首を振って悪夢を振り払い、マヤ様と連れ立って皆の元へ戻った。
「マヤ様も同行する」
静かな呻き声が、ネージュやギリアムを始めとする皆から洩れた。またマヤ様がむっとしないうちに、俺は慌てて声をかける。もう砦の近くまで来てんだし、ここで揉めてる暇はない。急がないと、夜が明けてしまう。
どうせなら、暗い内に潜入したいからな。
「作戦決行するぞ。人員配置は俺が道中で決めてるから、それで行く。まず、エルザとヨルンは部隊と共に待機してくれ。予定時間が来て命令撤回の合図がなきゃ、無事に門を開く算段がついたってことだから、そのまま砦へ来てくれ」
命じた途端、失礼なことにエルザが大げさな仕草で胸を撫で下ろした。……前回の砦攻略の悪夢が残ってるせいか、先行部隊を外れたのが嬉しいらしい。
ヨルンは逆に、心配そうに「俺がいなくて大丈夫か?」などと吐かす。
それはそれでむかつくセリフだな、おい。
「まあ、今回はおまえナシでなんとかする。あと、ボンゴっ」
俺はヨルンをあしらい、弟分の獣人族を呼んだ。
「ここだよ、あにぎっ」
遠慮して離れていたボンゴが、嬉しそうに手を振る……こいつも二等戦士になったんだから、みんなと一緒にいりゃいいのに。
「おまえも、ここで待機組だ。奴隷兵士が間違っても騒がないように、睨みを利かせてくれな?」
「う、うんうんっ。あにぎこそ、気をつけてっ」
ボンゴがちっこい目を細めて嬉しそうに笑う。エルザとヨルンだけを残すのは危ないが、他に二等戦士が皆無ってわけでもないし、あとはボンゴがいれば、奴隷兵士の押さえは万全だろう。
「よし、後はミュウとギリアム、それにネージュとレイバーグが、俺達に同行する先行組な。傭兵志願を偽装するため、他に奴隷兵士を十名ほど同行させる。俺達は彼らの中に紛れる形だ」
命令を出し終えてほっとした途端、忘れていたローズがいきなり手を挙げた。
「お待ちをっ。戦士将、私の配置は!」
……もう声がいきなり尖っている。
また勝ち気な女の相手かっ。
俺の周囲、こんなんばっかりだな、しかし。




