砦攻略(の予定)――その6
――その6
「まあ、俺は用心だけは怠らないっつか、常に最悪を考えてるトコがあるからさ」
皆が褒めてくれることに段々気まずくなり、結局最後は正直に白状した。
完璧な事実であって、誇張は全くない。実際俺は、過去のボッチ経験が悲惨なので、物事を悪い方に考える節がある。
今だって、こいつが斬りかかる可能性を最初から考えてたし。
「というところで、さて改めて話そう、おじさん」
一段落すると、俺はその帝国の間諜っぽい人に話しかけた。
エロい格好で縛られたエルザが遠くから悔しそうに見てるけど、悪いがこの男を解放するわけにはいかない。
「その前に――」
がらりと口調の変わった自称農夫が、俺を睨んだ。
「エルザを――あの子をどうするつもりだ?」
「ああ、SM縛りされてるあの人? やっぱり知り合いなんだ?」
返答ナシ……ヨルンがむっとして男を締め上げようとしたが、俺は手を振った。
「いいよ、ヨルン。そりゃ素直に話すわけないよな。……まあサービス精神豊富な俺は答えてやるけど、エルザは一緒に連れて行く。彼女の力が必要なんだ」
「戦で魔法を使わせる気か! どうせ、乱暴もするつもりだろうっ。薄汚い奴らだ!」
「黙れっ」
いいと言うのに、黙っていられなくなったのか、ギリアムが怒鳴る。
「ナオヤ様は、間抜けにも捕まって縛り首になりかけていたあの女を、お救いになったのだ。何も事情を知らない貴様が、憶測だけでものを言うな!」
言われ、男は驚いたように俺を見た。
……つーか、この人はともかく、遠くからこっちを見ているエルザまで、ぶったまげた顔になるのはどうなんだ、おい。
普通、そういうことだったってわかるだろ! 俺が本気で、戦わせるために何がなんでも必要だったと思ってたのかー? あるいは、押し倒しておっぱい揉みまくってやっちゃう気だと(いや誘惑くらいは覚えるけどっ)。
ったく、元の世界でもよく思ったことだけど――これだから美人はようっ。
俺は内心の不満を押さえつけ、律儀なギリアムに頷いてあげた。
「どうも。でもまあ、敵が俺達を罵るのは当然だし、今更だよ。落ち着いて話そう」
あんたもさ、と男を見たが――こいつはまた、素晴らしく頑固な野郎だった。
「ふんっ。エルザは知らんが、俺は懐柔されんぞ」
「……言っちゃ悪いけど、エルザも全然懐柔されてないっつーの。俺は喚かれてばっかだ」
すかさず言い返したが、男は無視した。
「とにかくっ。俺は何も話さん。誰が魔族の連中に秘密を漏らしたりするか!」
「へぇえ? すると、あんたは何か重要な秘密を持ってるわけだ」
「今のは言葉のアヤだ!」
いささかぎくりとした男の顔を見て、俺は脇に控えたミュウを見る。
やはり彼女は首を振った。嘘だということだ。
「……ちなみに、あんたってもしかしてどっかの軍勢の斥候とか? 魔族軍と違って、帝国は斥候をマメに出すっていうしな」
「関係ないね。俺は単なる間諜で、運悪く見つかっただけだ」
振り返ると、やはりミュウは首を振った。
おいおい、こりゃマジでヤバそうだな。
「ヨルンっ」
「おおよ。拷問か?」
嬉しそうに応じた彼に、俺は苦笑して首を振った。
「悪いけど、今度はダヤンや他の二等戦士も含めて、さっきの倍の人数を斥候に出す。こりゃどうも……帝国側の軍勢がそばにいるような気がするんだ」
「ああ、言われてみりゃ……可能性はあるな」
「馬鹿なっ。そんな事実は全くない!」
などと男が慌てたように喚いたが、俺はもちろん無視した。
それが嘘だっていうのは、ミュウに訊かなくてもわかる。
「はいはい。とにかくあんたは、帝都マヤに護送する……まさか逃がすわけにもいかないからな」
「待て、俺は」
男がまた何か言いかけたが、俺の視線を受けた二等戦士の一人が、そいつを引っ立ってていった。
「悪いけど、エルザとは離しておいてくれ!」
そいつの背中に命じると、再び斥候に出ようとするヨルンやダヤンにも声をかけた。
「何度も送り出してすまないけど、頼むぜ。多分、ひどくまずいことになってる気がするんだ」
「お任せを!」
「任せてくれって」
ダヤンとヨルンはそれぞれ頼もしく応じ、離れていった。
さて……これで何が起こってるかわかるといいんだが。




