即決ブーイング
その後、俺は深夜までマヤ様のマッサージの相手をさせられ、あの方が眠りについたのを確認してから、へとへとになって宿の一階に下りた。
いや、マヤ様に呼びつけられる前は、みんなそこにいたので、一応どこか隅の方で休む前に覗いておこうかと思ったからだが――。
呆れたことに、みんなまだ、普通に一階に揃っていた。
ここは、いわば俺の世界でホテルで言えば、フロント前に開けた空間みたいな場所で、壁際の暖炉を囲むようにして、赤い布地の三人掛けくらいのソファーが並んでいる。
でもってそのソファーで雁首揃えるようにして、ギリアムを始めとして、ほとんどのメンツが揃っていた。
俺が階段を下りてくると、全員が立ち上がって迎えてくれた。
「おぉ……ナオヤってば、明るいところで見ると、ホントに顔に斜めの線が入ってるじゃん! うわぁ、痛そうだなあ、おい」
真っ先に、俺が最初に目覚めた時にはいなかったヨルンがほざいてくれた。
どうせあの時は爆睡してたんだろうが……久しぶりに出会って開口一番それかよ。
「こ、これっ」
ギリアムもいい加減、ヨルンの態度を改めるのに疲れたのか、今や注意する口ぶりも諦め口調である。まあ、俺自身があまり気にしてないせいもあるんだけど……。
「あれ、ローズは? 最初に俺が目覚めた時は、いた気がするけど」
何気なく訊いただけなのに、その時に漂った微妙なこの雰囲気!
一瞬で、ささっと顔を見合わせた面々の気まずい顔とかなっ。
「い、妹は……先に休みました、はい」
しかもなんだその、ギリアムの焦った声わー。
こういう時、昔ボッチだった俺は、敏感に感じるね。「あ、こいつら『おい、みんなあのコトは黙ってようぜっ』と目線で会話してるなっ」てさ。
そこで、空気を読むのに長けた俺はあえて訊かないでおこうと思ったのに、ヨルンが全然空気読まずに教えてくれた。
「なあ、ナオヤよう! あいつの採用、ちょっと見送った方がいいんじゃないかぁ? なんか態度悪いんだけどっ。特にだ――」
真っ黄色の髪を掻きむしるにようにして吐き捨てる。
「特に、上官に対する態度がなってねぇよっ」
……さてはこいつ、何かきっついこと言われたな、彼女に?
「き、君が言うんだから、よっぽどなんだろうな」
暖炉近くに座ったレイバーグが、呆れたように口を挟んだ。いつの間にかみんなと打ち解けたらしい。
だけどうん、実際、ヨルンに言われたくないだろうな、あのローズも。
「ま、まあほら……ローズも初めての出陣だったんだし、いろいろ思うところもあるんだろうさ」
俺はなんでもないように笑い、ミュウがいそいそと場所を空けてくれた隣へ座る。本当はもう寝たいけど、なぜかみんな起きてるしな。
「どうもねぇ、彼女にしてみれば、初陣で上官が拉致られたっていうのが、ショックだったみたいねぇ」
いつもの魔法少女みたいな格好のネージュが、俺の正面で意味ありげに笑う。
うう……わかってる、皆まで言うな。どうせ俺は美人にウケが悪いんだよ。
言うな、言わんでいいって俺が必死に目で訴えてるのに、ネージュはそのままあっけらかんと吐かしてくれた。
「ショックというか、早い話がナオヤ君に失望しちゃったってことかしらー。あたしとしては、タイミング悪かったと同情してるんだけど」
「もっと早い話、ナメられてるわよ、ナオヤっ」
最後にショートパンツ姿のエルザが思いっきりトドメを刺してくれた。
だ、だからっ、言わんでもわかるってのにっ。あと、わざわざ俺を指差すな馬鹿たれ!
俺は頭を抱えて呻いてしまった。確かにまあ、新兵に見せる上官の姿としては、「いきなり敵に拉致られました、てへっ」てのは、まずかった気がする。
くっそー、俺だって初めての経験だったのに、何もこんなタイミングで、美人にかっこ悪いトコを見られなくてもなぁ。
「す、すみませんっ。どうも、不肖の妹で……なんとお詫びすればいいか」
俺の斜め前で一人で小さくなったギリアムが、俺以上に小さい声で言い訳する。
「その……あの後で本陣に戻った陛下がナオヤ様が囚われたのを知って、怒り狂ったのです。そこで、我々全員が兵士を引き連れて後を追ったのですが、その間、同行した陛下に散々なじられたのも、ローズがへそを曲げた原因かもしれません」
ああ、それ想像できるな、うん。
マヤ様は割と八つ当たりする方だからな。「いなくなりましたですむか、馬鹿もーんっ」てことで、ギリアム達は怒鳴りまくられたのだろう。つーか、俺の関係者じゃなきゃ、首が飛んでたかもしれん。
ホント、こういうところは魔王と呼ばれるに相応しい性格だからな、あの人は。
「関係ありません。ナオヤさんの臣下なのですから、普段から粉骨砕身し、いざとなれば命を捨てる覚悟で日々仕えるべきです」
珍しく、ミュウが断固として口を挟み、みんな目を丸くしていた。「あんた、そういう性格だったのぉ?」みたいな視線で、ミュウのさらに隣に座るエルザなどがガン見してるわけで。
俺は気まずくなって無闇にスーツの衿を直し、座り直した。
「い、今はローズの機嫌を論じてる場合じゃないんだよ、うん。俺達、これからまた、困難な任務をこなす必要があるからさ」
金髪ねーちゃんローズのことを頭から追い払いたい一心で、俺は自ら話題を変えた。
「例の国境砦、俺達が三度攻略に向かうことに――」
「えぇえええええっ」
エルザが黒髪を揺するようにして、真っ先に黄色い悲鳴を上げた。
「またなのぉおおお」
……反応はえーよ!




