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舞い戻った太古の女神

 

 しかも遠慮ナシの連打である。い、痛いっ、痛すぎるっ。

 脳みそが耳からはみ出るかと思ったじゃないか!


「いや、涙を見て反省しましたけど、このまま感情の赴くままに頭をガンガンやられると、また気を失いそうですっ」


 俺の頭は木魚じゃないしっと言う代わりに、辛うじてそう言った。

 返事の代わりに、マヤ様は無言でベッドを下りてきて、いきなり俺の胸ぐらを掴んでくれた。

 そのまま俺を引きずり起こして近くの壁まで連行し、どかっと叩き付けてくれた。


「ナオヤは強くなったはずではないのかっ」

 ほんの数センチの距離まで迫った真紅の瞳が、恐ろしくも綺麗だった。泣き濡れていたせいかもしれない。

 当然、俺も言い訳する言葉とてなく、素直に頭を下げるのみである。

「……ご心配かけました」

 俺の謝罪を聞いてもマヤ様はしばらく睨んでいたが、ようやく本気だとわかってくれたのか、押し殺すように述べた。


「本当に……心配したのだぞ」


「……はい」

 申し訳ない気持ちで答えると、なぜかそのまま抱きついてこられた。いつもより薄着なのでちょっと焦ったが、動くのも悪い気がして、俺は自分も素直にマヤ様の背中に腕を回した。


 そのまま、しばらく二人で抱き合っていた。







 多分、その間に涙を引っ込めるか、あるいは俺のシャツでこっそり涙を拭くかしたのだろう。二人で備え付けのソファーに座った時には、もうマヤ様はいつもと同じ凜とした表情……にかなり戻っていた。


 一応、この部屋に来る前にギリアムやエルザから情報は聞いていたので、俺は改めて自分の方の事情をマヤ様に話した――もちろん、思い出せる限り、全部。


 話し終わった後、渋い顔のマヤ様に尋ねてみる。


「向こうには、元ロクストン帝国のブレイブハートを自称する、サクラって娘がいたんですが……今お話した通り、あいつの腕はレイバーグに勝るとも劣らないものでした。本人の話じゃ、今の時代よりももっと前の時代の勇者だ、みたいなことを言ってたんですけど、マヤ様に心当たりはありますか?」

「マヤにはないが、あれから情報を集めさせた」

 さりげなく俺の肩に頭を預け、マヤ様は教えてくれた。


「……それによると、少なくともその女の言うことは間違っていない。ロクストン帝国は、かつてこの大陸全土を支配する寸前までいった大帝国で、百名の一際腕の立つ戦士――いわゆる、ブレイブハートを抱えていたらしい。つまり、今の世に伝わる『勇者』の元祖だな」 


 ひゃ、百名!? 思ったより多いな……あんなのがあと九十九名いるとか、勘弁な。

 俺は内心でびびりつつ、さらに質問した。

「じゃあ、ロクストン帝国とやらが二千年近く前に栄えた大帝国だっていうのは、事実なわけですね。あいつ、俺の世界で生まれたけれど、元のロクストン帝国に戻るつもりでこっちに来た、みたいなことを言ってましたけど」


「待て。ナオヤの世界にいた? なぜ過去の帝国のブレイブハートが、ナオヤの世界にいたのだ」


 マヤ様が不審そうに横目で見る。

「そこがややこしいところなんですが、どうやらあいつ、俺が元いた日本で転生していたようです。おまけにレージ軍の関係者も多くは日本に来ていて、そこで何らかの事件があった後、元のロクストン帝国に戻るはずが――」

 もったいつけて間を置いた後、俺は一気に言った。

「……なぜか、時代がズレた未来のこの世界に来ちまったということらしいです。ただし、別にサクラが軍の指導者ってわけじゃなくて、どうも最高指揮官は別にいるらしいですけど」


「それは聞いた。どうやらレージ軍とやらの指揮官は、太古の女神らしい。しかも、かつてクレアル大陸全土を席巻してロクストン帝国を滅ぼしかけた、暗黒の女神だ。女神は女神でも、邪神の側だな」


 クレアル大陸ってなんだとしばらく考え、俺はそれが今いるこの大陸の名称であることを思い出した。久しぶりに聞いたせいか、すっかり忘れてたな、そんなの。


「するとなんですか、敵の総大将は……神様……とか?」

「とかもなにも、そのまんまであろう」


 これまた、マヤ様は危機感もなくあっさり言ってくれたね!




「ロクストン帝国は、ブレイブハート百名を先頭に戦い、最後はその邪神を退けた。しかし、その後で内紛のために消滅してしまった故、もう記録自体がろくに残っていない。ただ、邪神ヴァレンティーヌという名前だけは、辛うじて伝えられている。マヤも幼少の頃に父上に聞いたことがあるぞ。他に邪神の女神などは知らぬから、おそらくトップはそいつのことだな」


「いや、それはおかしくないですか? だって、俺がやりあったサクラってブレイブハートを自称してたわけで、本来ならその邪神と敵対してるはず……あ、でも、あいつは人間に恨みがあるって言ってたな」

 ぶつぶつ呟くと、マヤ様が苛立ったように言った。


「昔のことはどうでもいい、ナオヤ。今はそのサクラとやらもまとめて敵だ。既にナオヤと戦っているのだから、我々の敵だとはっきりしているではないか」

 相変わらず、竹を割ったように価値観のはっきりしている人だなっ。

 そこは見習うべきかもしれないな、俺も。


「そうですね、サクラは間違っても俺達の味方じゃありません」

 マヤ様中心に作戦を考える立場の俺も、素直に頷く。

「ただ、そのヴァレンティーヌって女神、おそらく今はユメって名乗ってますよ、俺、敵がユメ様がどうのって話してるの、聞いてますから。あと、ダークピラーがどうとか」


「なら、やはり邪神ヴァレンティーヌで間違いない」


 マヤ様がきっぱりと言った。

「ダークピラーとは、そのヴァレンティーヌを支える傑出した戦士の総称らしいからな」

「そうですか……じゃあ、あの時の会話って俺が思ったよりも重要だったかも」


 俺はレイバーグやミュウと盗み聞きした、サクラとレイモンとかいう戦士の会話を思い出す。あの支城で、暖炉に飛び込んで盗み聞きした時だ。

 俺は見つからないかだけを考えてドキドキしてたからアレだが、ミュウならあの会話も正確に記憶しているかもしれない。

 後で確かめないとな。


 よく考えたら、レージ軍の誰がどこにいるって、結構詳しく話してた気がするし。


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